GARDEN CITY LIFE~annex~

お越しいただきありがとうございます。当ブログは清水玲子先生の『秘密』のレビュー(時にネタバレ)と二次創作(こちらは一部BL要素含)のざっくり二部構成になっております。記事は単純に日付順に表示されておりますので、お読み頂く際はサイドバーや記事一覧などでカテゴリーをご確認またはセレクト頂けますと安心、安全です<(_ _*)>

薪にゃんと一緒 sect.4 

※こちらリアルには2015年7月10日ですがなるべく見つかりたくないのでコソコソっと記事を隠しております。悪しからず…


薪にゃんシリーズは打ち止め、なんて言いましたが今後もう私の言うことは白泉社さんの『秘密』新章予告くらいアバウトだと思ってください(^◇^;)

一応続き的なお話を書いてみました。本当は3.5くらいのつもりで短いのを考えていたんですが、勢いで長くなったので4にしました(笑)。
早朝パートが終わり、しかも寸志を頂いてしまったのが思いがけず嬉しく歌いだしちゃいそうなくらいいい気分でして(←実際帰りの車内で歌いかけたら咳が止まらず吐きそうになりました…)、帰ってきてそのままのテンションで昨日書いたものです。わーいこれでバーゲン行っていい!?というワクワク感は出てるかもしれませんがそれだけです(ーー;)。会話はかみ合わず大してテーマもないですすみません。今回はパロディですらありません(-。-;←割といつも…?

注:さほどRっ気ないです(←そんな日本語があるのか)。手前のQくらいですがちょくちょく怪しいので念のため良い子の皆さんとBLアレルギーをお持ちの方はお気遣いなくまたいで通ってください…。
 





 ふ、と顔のすぐ傍で空気が動いたような気がして、俺は閉じていた目をゆっくりと開けた。ほぼ真上にある照明の眩しさに思わず目を細める。シャワーを浴びた後ベッドに座って読みかけの本を読んでいたのだが、右手に本を持ったまま、いつの間にか後ろに倒れ込んで寝入ってしまったらしい。
(そういえば今何か)
 風が吹いたような、ふわっとした空気の流れを感じたのだけれど。
「――うわあっ!!」
 ゆるゆると顔を動かすとベッドサイドからじっとこちらを見下ろして立っているその人と目が合い、反射的に飛び起きて後ずさってしまった。
「そんな所に黙って立ってないでくださいよ悪趣味な!お化けでも出たのかと思いましたよ!?」
「おしいな、僕はまだ死んでないからお化けじゃない」
「は…!?ってか真面目に返さないでください!」
「それより青木、あれは何だ」
 そう言うと、薪さんは真顔のまますっと部屋の中央にある小さなテーブルを指した。
 そこには小ぶりな土台がついたミニファンのような機械と、フサフサの羽がついたハタキに似た猫向けの玩具が用意してある。いずれも先日たまたま書店に寄った帰りに通ったペットショップで見つけたものだ。何の気なしに猫たちを覗いていたら彼らがあまりにも楽しげに遊んでいたので、つい薪さんにもどうかな、と思って衝動買いしてしまったのだ。夜になるとたまにうちを訪ねてくれる薪さんには、猫耳と肉球までがリアルについた猫手、よく動くしっぽまでついているから――
「自動ぶんぶん丸と羽じゃらしですよ。可愛いでしょ?遊んでみます?」
 あれと今の薪さんが戯れたら、きっとすごく可愛いと…。
「結構だ!」
 取り付く島もないほどきっぱりとしたお断りの声が跳ね返ってきて、俺はやっぱり?と思いつつも少なからずがっかりして肩を落とした。リアルに無理ならばこのまま妄想ですますしかなさそうだ。…いや。
 そう言えばもう一つ。
「あ、じゃああれはどうですか?買ってきたわけじゃないんですけど、どこかにボールがあったような気がして探してみたら納戸にあったんですよ」
 ひょいと起き上がると、俺は部屋の隅の方に押しやっていたそれを取りに向かい、どうぞ、と薪さんの方へ転がした。
「……またでかいボールだな。これだと普通の猫は玉乗りになるぞ」
 難しい顔で腕組みをして、薪さんは前方に転がってきたそれを冷ややかに見下ろした。あれ?もしかしてこれが何か知らない…とか?
「見たことありませんか?バランスボールって言うんですよ」
「それくらいは僕だって知ってる」
 ……そうですか。
「確か学生の頃に買ったんですけど、俺には小さくて使い辛かったんですよね。きっと薪さんならちょうどじゃないかな」
「…厭味なヤツだな」
 薪さんは俺の方を睨みつけ、パールホワイトのそれを何度か感触を確かめるようにポンポンと叩いた。指先で突いて軽く転がすと、ボールはテーブルにぶつかり付近をゆらゆらした後動きを止める。ちょうどボールが止まったセンターラグの上に腰を下ろした薪さんは上目づかいに俺の方を見ると、ホラ、とばかりにベッド上に放置していた本を顎で示した。
「読んでたんじゃないのか?僕のことはいいから続けろ」
「いいんですか?」
「いいもなにも、別に僕の許可がいることでもないだろう?」
「…いや、実はちょっと仕事がらみの本で、早めに読んでおきたいんですよね。すみません」
 薪さんのお許しが出たので、俺は再びベッドに腰を下ろすと読んでいたページを探して目を落とした。
 先日お互いの気持ちを確かめあってからも、薪さんは何度かここを訪れていた。でも、何となく気恥ずかしさもあって実はあれ以来「そういう」話題は全く出せずにいる。同じ部屋でいてもなんとなく距離を取ってしまって、他愛もない話をして終わったり薪さんお気に入りの日本酒を飲みながらテレビを見たり、そんな風に過ごす日が続いていた。
 気になるのだけれど、何をどうしたらいいのか、考えるとわからなくなって何もできないのだ。これが普通に女の子相手なら、きっと自然に甘い雰囲気になるのだけれど…何せ相手は上司、しかも猫耳しっぽつきの生霊だ。
(いや、確かにそりゃ、この間はあんなことしちゃったけど)
 思い出すと顔がカッと熱くなる。急に忙しく動き出した心臓に自分でも慌てて、俺は薪さんに動揺を気取られないようそっと胸に手を当ててゆっくりと長い息を吐いた。
(落ち着け…落ち着け俺!)
 わかってる。別にこうやってまったりと過ごすのも悪くはない。それに、ここに来るのはあくまでも生身の薪さんではないわけで、それが事態を余計にややこしくしていた。ただ…有体に言ってしまうと、たとえ本物の薪さんじゃないとしてもっとスキンシップを取りたい気持ちがないわけではない。でも正直、俺が知っている薪さんはそういうイチャイチャを好む人には見えないし、何より束縛を嫌いそうな雰囲気がある。何か行動を起こして軽蔑されたり拒まれたりするのは、やっぱり怖い。
(ああああああーっ…)
 ぐるぐると考え出すと本どころじゃない。駄目だ全く頭が活字を追ってくれない。
 諦めて顔を上げると、いつものごとく半袖のTシャツに短パンというラフな格好の薪さんは、バランスボールの上に仰向けになったりうつ伏せになったりしながら、身体を思い切り伸ばすストレッチを繰り返している。ちょっと心配だったけど、大きさはぴったりだったみたいだ。普段は基本デスクやモニターに向かい合ってじっとしていることの多い仕事だから、こういうストレッチは新鮮で気持ちがいいのかもしれない。
 …自動ぶんぶん丸と羽じゃらしは失敗したけれど、これだけでも気に入ってくれたのだとしたら良かった。
(っていうか)
 バランスボールと戯れながらしっぽをブンブン振ってじゃれつく様子はいつになく猫っぽくて、小さな後頭部にぴょんと顔を出している猫耳にもすっかり慣れてしまって違和感がない。むしろ猫耳もしっぽもない薪さんに今度東京で会うことがあったら、そっちの方がおかしく感じてしまうかもしれないと思う自分に若干危険なものを感じなくもないんだけど…でも。
(……実際カワイイよな)
 いけないいけない!だからこれが危ないんだって!
 ハッと我に返って、俺は視線を読みかけたままなかなか進まない本に慌てて戻した。何か顔が自然ににやけていた気がする。薪さんが後ろを向いてるのをいいことに思わずまじまじと見つめてしまったけど、この人は背中に目があるから厄介で、思った通り俺の視線に気づいたのだろう、ピタッと動きを止めるのが目を伏せていても気配でわかった。
「何だ?」
 間髪入れずに不機嫌な声が飛んでくる。…猫化していると一段と目敏い。
「いえ…。何でもないので気にしないで続けて下さい」
「続けて下さいなんて言われて続けられるか!我に返っちゃうだろ、せっかく楽しんでたのに」
 わ、我に返る…?楽しんでた…?いつも思うけれど、猫耳薪さんはどれくらいの成分が猫なんだろう。そうか、本気で気に入ってくれたのか…。
「いや、ほんと何でもないですから。見てませんからお構いなく」
「嘘だ。見てただろ?…もういい、お前に見せてやるのはシャクに触る」
 何気にそれ、酷くないですか?むすっとした薪さんは背後のバランスボールを片手で壁際に押しやった。手を後ろにつき床の上にふんぞり返るように胡坐をかいて座った薪さんの後ろでは、苛々をアピールするようにせわしなくしっぽが床を打ち始めている。
「あの…」
 一瞬迷ったけれど、これ以上ややこしくなる前にちょっと話題を変えた方がいいかもしれないという気がして、俺は薪さんの反応を窺いながら思い切って声をかけた。
「うん?」
 気のない返事ではあったけれど、一応の反応が返ってくる。この間長年よくわかっていなかった薪さんの気持ちはしっかり理解したつもりだけれど、ぞれ以来何となく気になっていたことがあるのだ。
「あの……薪さんて、いつから俺のこと…その、好きだったんですか?」
 ダメもとのつもりでそう問うと、見るともなく天井を見上げていた薪さんは驚いた様子で顔をこちらに戻した。一瞬目が合ったが、すぐにがばっと身体ごと顔を背けてしまう。その動きに合わせて流れた髪がその表情を隠してしまったのではっきりとはわからなかったけれど…。
(え…?)
 今、ほんのちょっと顔が赤かったような…。薪さんは黙ったまま微動だにしない。漂う沈黙に、途端に自分が発した問いが恥ずかしくなってきた。
「いや、あの…すみません変なこと訊きました、忘れて下さい。何で俺なのかなって気になってしまってそれでつい」
 考えてみれば随分失礼なことを訊いてしまったかもしれない。いや、かもしれないじゃなくて普通に失礼だし恥ずかしすぎる。駄目だ、雰囲気を変えるにしても気まずくしてどうすんだ俺は…っ。
「答えなくていいですから」
「おまえこそ」
 慌てて弁解に走る俺を遮るように壁の方を向いたままの薪さんがぼそっと呟いたので、思わず「え?」と聞き返してしまった。背けていた顔をこちらに戻し、こっちを向いた薪さんの眉間にはわずかだがシワが寄っている。
「おまえ、前に雪子さんに僕が女の子だったって夢を見たって話したんだって?」
「――はっ!?」
 とんでもない切り返しが来た。いつの話だ!?いや、それより。
「なっ、何でそんな話知ってるんですっ?」
「この間雪子さんに聞いた。夢の中の僕が実は女の子で、やったーって思ったとかなんとか」
 すっかり立て直しいつもの調子を取り戻した薪さんはしれっと答えた。相変わらず復活するのがお早い。それはそうなんでしょうけどあなたたちいつの間にそんな仲良しになってるんですか?…じゃなくて。
「それはその…いや、言ったような気もしますけど」
 しどろもどろになっていると薪さんはひょいと立ち上がり、俺の前までやってきて足を止めた。
「薪さん…?」
 表情のない顔でじっと俺の手元辺りを見下ろし、薪さんは俺が読んでいた――いや、もう持ってるだけになっていた本をつまみ上げてパタンと閉じた。そのまま本の表題を報告書のチェックでもするように見ると、傍らのサイドボードにぽんと放り投げる。できたらそろそろ何か喋って欲しい。
「あの…?」
 一連の動きを見守っている俺の方は見向きもせずおもむろに隣に腰を下ろすと、薪さんは膝に頬杖をついてやや下方からようやく俺の方を見た。さっきまではずっと目を合わせようともしなかったのに、今度は食い入るように見つめてくるんだから…このプレッシャーのかけ方はいったいどこで身につけたんだろう。いや、ひょっとしたら天性か?おまけにこの人は無言でいる時が一番怖く、それが相手に与える効果もわきまえているのだ。…と、思う。
「な、何ですか?」
「……で?」
「で、って?」
「何で僕が女の子だって気が付いたんだって訊いてるんだ」
「――」
「青木。詳しく説明しろ」
 ハイ。…いや、無理です、勘弁してください。っていうか猫耳なのに室長入ってますよ薪さん。やっぱりこの人は俺がこうやって上目遣いに睨まれるのに一番弱いって知っているような気がする。もちろん睨まれるのは上目遣いじゃなくても得意ではないけれど。みんなそうだろうと思うけど。
「答えろ」
 うっ、と言葉に詰まった俺を目をそらさずに見上げてくる目がちょっとだけ据わっているように思うのは気のせいなんでしょうか。
「…記憶にないです」
「おまえはどこかの政治家か。そんなんじゃ失脚するぞ」
「…そうなったら食わしてください。もう俺、老後まで不安はないです」
「バカじゃないか」
 すうっと目を眇めて、薪さんは呆れた様子で大袈裟に溜息をついた。そのままバタンと背後に倒れ込む。ベッドがほんのわずか沈み込み、揺れた。俺は片手をついて自分の身体を支えながら、薪さんの方に向き直った。
「すみません…怒ってます?」
薪さんの様子をうかがおうにも、モフモフの両手が目の辺りを隠していて表情がわからない。仕方なく聞いてみたが、答えはすぐには返らなかった。
「…今もそうなのか?」
 直前の俺の問いには答えず、しばしの間をおいて薪さんはそう反問すると顔の上に乗せていた両手を耳の横にぱたんと落とした。長い睫毛に縁取られた大きな目はまっすぐにこちらを見つめている。
「え…?」
「だから――今も僕が女の子だったらなぁとか思うのか?そっちの方がおまえは嬉しい?」
 ちょっと言いにくそうではあったけれど、けれどもずっと考えていたのかもしれない。薪さんの口調には問うこと自体を躊躇う響きはなかった。
「この前みたいに…男の僕を抱くのは抵抗があるんじゃないのか?」
「抵抗なんて」
 あるわけない。それどころかあの時は本当に止まらなくて、躊躇いなど一切なかった。大体無理してするようなことじゃないし、できないのが普通だ。でも…考えてみれば俺はずっとこの人の気持ちにも自分の気持ちにさえも気づかなかったんだから、そんな風に薪さんが不安になるのは当たり前かもしれなかった。以前の俺は雪子さんと婚約までしていたし、女性が恋愛対象だったのは薪さんだって知っているところなのだからなおさらだろう。
「薪さん、もし今あなたが女の子になったって俺この間みたいなことはしないですからね?雪子さんにそう言ったのは確かですけど、あれはその…第九に入ったばっかの頃は本当になんでこんなに可愛いのにこの人こんなに性格悪くて怖いんだろうって思っててですね…その、せめてもの願望が出たって言うか…すみませんほんと。嫌ですよね、夢とはいえ自分が女の子だったらいいななんて思われるの。けど、そんな風に想ってたのは最初だけで、今は全然思ってないですから」
 あ、あれ?何か途中正直に喋りすぎたような気がする。もしかしたら怒られるかと思ったが、俺の失言は珍しく流してもらえたようだ。叱責も厭味も飛んでこず、薪さんは静かに俺の言葉を聞いていた。
「……まぁ、そういうのなら僕もお前にどうこう言う資格はないんだけどな、本当は」
「?」
「『本当によく似ている』」
 そう言うと、薪さんはクスリと自嘲気味に笑った。
「ああ…」
 鈴木さんのことか。そりゃあ何度も間違われて来たし、今も全く気にならないというと嘘になるけれど…もういいのだ。この人の気持ちが聞けた今では些末なことで。拘っても仕方ない、と思ったから。
「おまえは僕を責めないよな。腹が立ったりしなかったのか」
「責めるだなんて、そんな…そりゃあちょっとは傷つきましたけど、似ている人に誰かの面影を見るのは仕方がないですよ、大切な人なら余計に。俺が怒ったりできることじゃないです」
「大人なんだな」
 言って薪さんは微笑した。その微笑みが、不意に悪戯っぽいものに変わる。
「僕なんてその本にさえ妬いてるっていうのに」
 薪さんの視線の先には先刻俺から取り上げて放り出した読みかけの本があったが、俺はすぐには意味がわからず内心首をかしげた。何で急に本?
「おまえ、本当に真面目に読み出すから」
「は?ええっ?だって言ってくれたじゃないですか、構わなくていいから続けろって」
「真に受けてどうする」
「………すみません」
 わかりにくい。あんな風に淡々と促されて、実は内心構われたいって思ってるとは誰が思い至るっていうんだろう。せめてもうちょっと口調なり態度に出しえもらえれば、俺だって。
「…構って欲しかったんですか」
「まぁ、そんなところだ」
 何故か憮然とそう言うと、薪さんは再びふいと天井に目線を戻した。
「何ですかそれ。だったらそう言ってくれればいいのに…」
「おまえそれはさっきの続けてくださいと同じだろ」
「はぁ!?」
 意味がわからない…無理ってことですか?
「…こうやって時間を共有するっていうのは思っていたより色々と難しいものなんだな。邪魔はしたくないのに、思い思いに過ごしてるだけじゃ物足りない気がするのはやっぱり僕が贅沢なのか?」
 言いながら、薪さんはフワフワの毛に覆われた手を口元に持って行きほんのわずか首を傾げた。…ちょっと。真剣に何かわいいこと考え込んでるんですか。その仕草だってわざとだとしたら小悪魔すぎます。
 でも、邪魔したくない、干渉しすぎて負担になりたくないって思っているのは俺だって同じだ。この人が日頃俺よりずっと責任の重いハードな仕事を自分から拾いに行ってまでこなしていることなど容易に想像がつくわけで、せめて家で過ごす時間は誰にも気を遣わず癒されて欲しいって思わずにいられない。正直、近づき過ぎても離れすぎても落ち着かなくて、どんな距離感でいればいいのかはかりかねているのは俺の方かと思っていた。
 お互いに…遠慮が出て。多分それはこの間のことが頭をよぎるから、でもあるのだと思う。
「贅沢でいいんですよ…ご存知ですよね、俺、構うなって言われても薪さんのこといつも構いたいんです。ずっとそうなんです。それくらい好きなんですから、憶えといてください。今日だって、一応我慢してたんですからね」
 口元に当てた手はそのままに、薪さんはチラッとこちらを一瞥した。
「………」
「?何ですかその目」
「女の子だったらいいなって思ったのに?雪子さんにプロポーズまでしたのに?」
「――っ!だからそれは!…前から思ってたんですけど、薪さんって結構しつこ」
 い、と言うのを待たず容赦ない足蹴りが飛んできて俺の脇腹に命中した。
「イッタ…っ!!」
 ちょっと本気入ってませんか!?
 不意打ちで入ったなかなかの衝撃に俺は腹部を抑えながら薪さんの隣に前のめりに倒れこんだ。本当に手とか足とか早いしクセが悪い。でも…。
「おい」
 ぎし、っとベッドがわずかに軋む音がして、ほんの少しだけ身体が沈む。すぐにそっと腹部を押さえていた俺の手に触れる柔らかい感触があり、俺は突っ伏していた顔を動かして薪さんの方を振り向いた。
「悪い、大丈夫か?」
 すぐ傍に、心配そうにこちらを覗き込んでいる薪さんの顔がある。こんなに心配してくれるなら最初から暴力は無しにして欲しいところだけれど、こういう素直なところが何というか…。
「――…」
「青木?」
 ああやっぱり。
 この人が愛おしい、と思った。そう思う自分の気持ちを愛おしく感じた。思い返すと、気づかなかったけれどもうずっと長い間この気持ちは自分の中にあったような気がして。待っていてくれた薪さんへの気持ちがどうしようもなく溢れ出て、溺れそうで苦しい。
「大丈夫じゃないです。助けて下さい」
 差し伸べられていた手を引き寄せ、そのまま細い身体を腕の中に抱きしめた。それでも、苦しさはおさまらない。
 もしかすると。この人を不安にさせているのは、俺の中にある不安が原因なのかもしれない。誰よりも他人の心の動きに敏感なこの人が、俺の細かい心の動きに気付かない筈がない。気を遣っているつもりで、変な緊張感を作っていたのは俺の方なのかもしれない。
「ちゃんと加減はしただろ?もうわかった!これだけ動けるなら平気だ」
 何してんだ離せ、ともがく薪さんをさらに力を込めて抱きしめると、俺は薪さんのやわらかい髪と猫耳に顔をうずめ、すぅ、と息を吸い込んだ。
「おい!何してるんだ気持ち悪い!放せってば!」
 気持ち悪い、という破壊力のある言葉に反射的にパッと手を放すと、突然拘束を解かれた薪さんは籠った呼気のせいで少し赤らんだ顔でこちらを見上げ、バツが悪そうに顔を背けた。
「馬鹿!だからって急に放すな」
「ええっ!?」
 どっちなんですか。本気で傷つきそうになったのに。
 はぁ、と上を向いて嘆息すると、今度はそっと、小柄な身体を包むように背中に腕を回した。腕の中の薪さんはもう暴れて逃げようとはせず、こつんと胸に預けられる額の感触を受け止めて、俺はこの時間の幸せをほのかに感じる体温ごと抱きしめた。
「…あの、薪さん」
「何」
 こうして抱きしめていると面と向かって顔を見なくても済むので、強引になるにはちょっとだけ都合がいい。
「襲ってもいいですか?」
「…………女の子じゃないんだぞ?」
 わかった、もうこのしつこさは照れでしかない。そうに違いない。
「知ってますよ」
 こみ上げるおかしさに笑いを抑えられなくなった俺を、顔を上げた薪さんがぎろっと睨みつけてくる。ちょっと泣きそうなその目が無性にかわいらしく思えて、俺はくすくすと笑いながら瞼にそっと唇を寄せた。
「もう、面倒くさいなぁ」
 小さく呟いたつもりだったけれど、さすがにこの距離だと丸聞こえなのは仕方がない。
「何!?」
「いえ。可愛いなぁって言ったんですよ」
「――」
「大好きです、薪さん」
 もそもそと腕の中の薪さんが身を捩る。やがてすっと身体の隙間から伸びた薪さんの腕が背中に回されるのを待って、俺はゆっくりと瞳を閉じた。



(おしまい)←再犯
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Comment

Name - eriemama  

Title - Re: 今後さらに進展…

趣味に走った妄想にお付き合いくださってありがとうございます;;;;

> 最初、Tシャツ短パンって書いてあって、もう実地Tにしか思えなかったです(笑)

そうそう、実地Tとリラコのイメージしかもう浮かびません(^_^;)
なみたろうさん家の薪にゃんはこれから青木の特別レッスンの予定みたいですが
うちはオチでも考えようかな(^_^;)

生霊っていう設定が苦しいです(笑)←自分で首しめた
2015.07.13 Mon 16:04
Edit | Reply |  

Name - ヤマネ  

Title - 今後さらに進展…

この二人、ちょっとずれていそうで、本当はお互いを思いすぎていて考えすぎちゃってっていうところなんですね。
いいですねー、考え込んで、猫手を口に当てて小首をかしげてってシーンにやられました。かわいい、絶対に。青木くんも胸キュン。

最初、Tシャツ短パンって書いてあって、もう実地Tにしか思えなかったです(笑)
あのかっこで、バランスボール楽しんでいたんですね。
性格は薪さんのまんまですね、生霊だから。だけど、薪にゃんだからパーツがやたらかわいくなっちゃう。

ふたりの会話が、これからの進展、お互いを気遣うだけじゃなくて、我儘を言い合える関係になっていきそうですね。
まだまだ読みたいです、薪にゃんシリーズ。
2015.07.13 Mon 14:38
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: ラブラブですね〜

> ラブラブですね〜
> イチャイチャしやがって!もっとしろ!(笑)

ハイ、きっとこの後(笑)。

> でも生き霊……本体薪さんはこのことを覚えてる設定??

そうそう、そこなんですよね(^^;)。はて…オチはどうしましょう(笑)?覚えてなくてもドン引きですが、覚えてるのも怖いような(笑)
生き霊って意識はどうなってんでしょうね?グーグル先生に聞いてみようかな?←誰もそこまで正確なところは求めてないだろうけどただの興味

> というかやはりBL本の成果が……!ふふふ。

成果、というとプラスですが私の場合中途半端に影響が(笑)シリーズなのにこの統一感のなさたるや…にゃんたろーさんの今日の岡薪に学ばせて頂きます<(_ _*)>

> ところでうちにもバランスボール(青)があったのですが、猫の爪によって穴をあけられました。

えっ!?バランスボールうちにもあるんですが(←たまに乗ってます)結構生地分厚いですよね?すごいな猫の爪…青木大丈夫かな…(°▽°;)
2015.07.11 Sat 21:22
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Name - ねこじゃらしにゃんたろー  

Title - ラブラブですね〜

ラブラブですね〜
イチャイチャしやがって!もっとしろ!(笑)
でも生き霊……本体薪さんはこのことを覚えてる設定??

というかやはりBL本の成果が……!ふふふ。
順調に回を重ねてますね!

ところでうちにもバランスボール(青)があったのですが、猫の爪によって穴をあけられました。ある日しぼんでしまったんです……。猫の爪おそろしい。
2015.07.11 Sat 13:06
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: ナニコレ~~(´;ω;`)

> お仕事、お疲れさまでした!!(°▽°)

いえいえなみたろうさんこそ!いつもお疲れさまです。伝票やら請求書でもパソコンでもなく人が相手のお仕事はしんどいですよね、色々…。私は今回一人カタカタ伝票あげてただけなんで肩こり以外は大して(^^;)。

> なんですかこの可愛い二人はっ!!

可愛いですか?イメージはたきぎさんのピグと実地T着たなみたろうさんの薪にゃんです(笑)。あとは多分、今回は参考にはしてないけど雰囲気(ノリ?)だけ頂いたかもしれないので、この前から一気読みした漫画の影響かなあ( ̄▽ ̄;)

> うああああああ可愛いぞこのやろう!!
> ついでに青木も可愛いぞ!!
> 付き合いたてのぎこちないカポーかっ

色気より可愛さを追求して良かったです(笑)ひたすら趣味に走りました。青木まで巻き込みました。多くの人の薪さん像とか薪にゃん像すら壊してるんやろうなと思うと急に怖くなりますね…。

> eriemamaさん、元気と、次の薪にゃん絵のネタありがとうございました!

ちょっとでも元気になっていただけたなら幸いです(*^^*)。薪にゃん次あるんですか?(笑)それは楽しみ~。お待ちしております!

お粗末様でした<(_ _*)>
2015.07.11 Sat 00:29
Edit | Reply |  

Name - なみたろう  

Title - ナニコレ~~(´;ω;`)

お仕事、お疲れさまでした!!(°▽°)
なみたろうも今日はやたらクソ…いや、難しい案件ばっかで、こんな日に休みの上司に、休み明けに絶対いじめてやると決心して、ようやく明日は自分も休みなのでプリン買いました。

で、疲れがぶっ飛びました。

なんですかこの可愛い二人はっ!!
バランスボールに抱きつく薪にゃんとか
猫手を耳の横になんて「好きにして」ポーズの薪にゃんとか
首かしげる薪にゃんとか
理屈こねすぎてめんどくさい(笑)薪にゃんとか
うああああああ可愛いぞこのやろう!!
ついでに青木も可愛いぞ!!
付き合いたてのぎこちないカポーかっ
早く結婚しろ。

eriemamaさん、元気と、次の薪にゃん絵のネタありがとうございました!
2015.07.10 Fri 23:51
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: No title

> ぜひバーゲンでいいものゲットしてくださいね。

はい!…って言いたいとこなのですが、明日行くつもりでしたが、長女が手足口病、次女アデノ(?)でただ今ドゥーンと落ち込んでます…まあそれ以前に自分も声が聞き取れないくらいにやられてて笑えるんですが(^^;)。とりあえず自宅に引きこもっておきます。

> そして、薪にゃんシリーズもついに4作目!! 

薪にゃん、青木共に弄んでいるだけのどうしようもない話ですみませんでした(-_-;)。

> 羽じゃらしの出番は、このあとあったかな…(ふふ)。

え?羽じゃらし何に使うんですか?(笑)コチョコチョ?←なわけない
ねこあつめ、夏になりグッズに極冷アルミプレートとか天然大理石プレートなるものまで登場しているんですよね。昨日今日の暑さに青木にこれ買わせてその上に薪にゃんには横たわってもらおうかと思ったのですがさすがに何だかいかがわしい話になりそうだったんで健全なねこあつめのため脚下しました( ̄▽ ̄;)特大アルミプレート欲しいなー。

2015.07.10 Fri 21:36
Edit | Reply |  

Name - たきぎ  

Title - No title

早朝パート、お疲れ様でした! 寸志だなんて、短期なのにいい会社ですね~。きっとeriemamaさんの仕事ぶりがよかったんでしょうね。早起きして頑張った自分へのご褒美、ぜひバーゲンでいいものゲットしてくださいね。

そして、薪にゃんシリーズもついに4作目!! 
青木くんにかまってもらえず拗ねる薪にゃんも、バランスボールで一人遊びする薪にゃんも可愛い♪ 青木の胸にコツンとか泣きそうな目で見上げるとか、もう最強ですね。羽じゃらしの出番は、このあとあったかな…(ふふ)。
2015.07.10 Fri 21:02
Edit | Reply |  

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