GARDEN CITY LIFE~annex~

お越しいただきありがとうございます。当ブログは清水玲子先生の『秘密』のレビュー(時にネタバレ)と二次創作(こちらは一部BL要素含)のざっくり二部構成になっております。記事は単純に日付順に表示されておりますので、お読み頂く際はサイドバーや記事一覧などでカテゴリーをご確認またはセレクト頂けますと安心、安全です<(_ _*)>

薪にゃんと一緒【春の特別(?)篇】(ピヨッて薪にゃん②) 

阿蘇の友人から電気復旧のメールが来てちょっとホッとしました。関電から応援の方が来て下さったようですごく喜んでいました。まだ余震が頻発していますし、夜、灯りがあるだけできっと心の持ちようがだいぶ違うんだと思います(大きな揺れはいずれも夜だったので、夜になると不安感が昼間とはまた違うみたいなのですよね…)。ボランティアの受け付けも始まったようですし、少しでも早く生活が元の状態に近づくことを、引き続き祈っております。

こんな話をした後で何なのですが、SSの続きです。。。





薪にゃんと一緒【春の特別(?)篇】(ピヨッて薪にゃん②)

べリベリっとガムテープを剥がしていると、さすがに薪さんも気になったらしい。最初はこちらをチラ見していただけだったが、俺がビニールに覆われた黄緑と黄色の「それ」を取り出す頃には本を置き、すぐ傍に寄って来て手元を覗き込んでいた。
「これは?舞ちゃんの服か何かか?…毛布?」
しかし派手だな、と苦笑している。いいえ、全部ハズレですよ。
何なのかわかりにくいのはそれがひっくり返っていたからだ。俺は手の中のそれを一回転させると、こっちを向くように現れたものを見てクスッと笑った。思った通りの可愛らしさだ。これを薪さんが着たら…いやいや、まだ気が早いぞ俺。
一方、それを初めて見た薪さんはギョッとした様子で一瞬フリーズし、すぐにもの言いたげな様子で俺を窺った。
「青木?これ…」
「どうぞ」
思いもよらぬ物体の出現に明らかに戸惑っている薪さんにパッケージをはがして差し出すと、しばらく躊躇ってからではあったが仕方なさげに何とか受け取ってくれた。コスプレ好きの薪さんとはいえ、さすがに「いいのかこんなのもらちゃって」とかなんとか大喜び、なんてことはないのが現実である。
「…………何だこれ」
「インコです。セキセイインコ」
フードに顔がついているでしょ?
「いや、それはわかるんだが…」
「お好きですよね?」
「僕は鳥は好きでも嫌いでも…」
「いえ、そっちじゃなくて、被り物として見た場合の好み、の方です。お好きでしょ?」
「……」
薪さんは立ち尽したまま、俺が献上したそれを見降ろした。ちょうど畳んだ羽の部分の上に顔が乗るようになっていたので、インコと見つめ合うような形だ。片や猫耳、片やくちばし。そこだけを切り取るとかわいらしいツーショットである。だが、かつてこんなに途方に暮れている薪さんを見たことがあっただろうか…これはひょっとして、早々に失敗か?いや、ミッションはまだ始まったばかりだ、諦めてどうする。
「なんでインコなんだ…おまえ、コスプレは乗り気じゃなかっただろ」
よいしょ、と薪さんは目線の高さまで持ち上げたインコの頭部と見つめ合って小首を傾げると、胡散臭そうに俺の方を見た。
「はぁ、まぁそうなんですけど…でもちょっと最近、可愛いかなと思い初めまして。それに薪さんがお好きなら、一緒に楽しめた方がいいでしょ?お付き合いしてると恋人に影響されて…ってよくあるパターンじゃないですか」
「…………楽しむ?これで何を?餌付けプレイとか…?」
「いや餌付けプレイってよくわかんないんですけど、そういう変態的なのじゃなくてですね、もうちょっとメルヘンに」
「…………」
翼の部分を持ってベロンと全体を拡げると、表情を曇らせて改めてうーん、と唸る。その様子を見る限り、どうやら俺のセンスと薪さんの好みは微妙にズレているようだった。これが世代間ギャップってやつだろうか?しかしこんなところでそれが露呈するとは…。
「…僕にこれを着せたいのか?」
「はい、できれば。それを被ったら思い出すかもしれませんし…」
「思い出すって何を?」
あの時代を、ですよ…そう言いたいのはやまやまだったが、ここでそんな欲求に屈しては元も子もない。俺はぐっと拳を握りしめ喋ってしまいたい気持ちを堪えた。
「いや、何でもないですこっちの話でした」
「?」
まさかそれを着て俺にもピヨッて下さい!なんて死んでも言えるわけがないではないか。
(それにしたって薪さんのピュアな青春時代って具体的には一体どんなだったんだろうな…)
鈴木さんはそのすべてを傍で見ていたわけで…そりゃあ、キザな台詞を使っても口説きたくなりますよね…わかります。
(あぁ、早くその片鱗でいいから見てみたい)
……考えてみれば、これまでこんなに鈴木さんになってみたいと思ったことはないかもしれない。噂のピヨ薪さん!あの大きな綺麗な目を少し潤ませ、嘲るでも怒るでもなく、「好きにして、いいよ?」とばかりにすぐ傍から俺を見上げる薪さんを想像しただけで、胸の奥がキュンとするのを止められない…やっぱり俺、ちょっとアブないよな…自分の中にこんな変態要素があったなんて驚きだ。今この頭の中を薪さんに覗かれようものなら瞬殺されるかもしれない。けどもう開き直ります、こと薪さんに関しては変態でいい――だって俺がこうなるのは薪さんへの愛ゆえなんだから。
「どうぞ遠慮なく猫耳は取っていただいて」
まだ少し不信感を露わにこちらを見つめている薪さんにそう促しつつ、できるだけ自然に微笑んでみる。うーん…、と踏ん切りがつかない風情だった薪さんに果たして効果があるだろうかと不安だったが、俺の笑顔にはそれなりの効力があったらしい。はぁ、と諦めの吐息をひとつつくと、薪さんはじろりと俺を見下ろして事前に釘をさした。
「何を企んでいるのか知らないが…変なプレイをさせようとか、そういうのだったらおまえ、自分の身がどうなるかわかってるんだろうな」
「………ハハハ、まさかっ」
……なんでわかったんだ?地獄耳の次は千里眼?
とりあえず変態プレイとかではないつもりですが。別にインコに萌える性癖とかなわけではないし。インコになっていただくのは、あくまできっかけ作りであって断じてそれが目的なわけではないんです、ええ。
「…まぁいい。ちょっとあっち向いてろ、今着替えるから」
あれっ?もっと手こずるかと思ったらもう着てくれるんですね?あ、今日の青薪劇場尺が足りない?くだらないコントの着る着ない二択でこれ以上引っ張るな?そうですか…ですよねー…。
ともかく俺は言われた通り薪さんに背を向けると一人こっそりとガッツポーズを取った。っていうか未だにどうして薪さんが生着替えタイムになるとあっち向けになるのかよくわからないんですけど…まぁいいか、何もかも見せ合いっこした後なのに恥じらってみせる、そういうとこも可愛いです、ええ。
ほんと、これまで妙なかぼちゃコスプレや魔女コスプレなどに耐えてきて良かった…。薪さんのここでの若干イタいコスプレ遍歴を思い出し、しみじみと喜びをかみしめる。あとはあの甘酸っぱい時代に心も体もトリップしていただくだけだ。どうやらそのスイッチは鈴木さんだということだから、ここはもうプライドはかなぐり捨ててでも久しぶりにアレをするしかない。いつ本番を迎えてもいいように先日事前に鏡の前でした確認、角度チェックなどを思い返し、表情筋を意識する。高鳴る鼓動を抑えつつ、爽やか爽やか爽やか…とまじないのような自己暗示も忘れない。
そうこうしているうちに、うん、という声がしてガサガサバサバサと背後でしていた物音が止んだ。
「よし、これでいいかな?…もういいぞ青木。だいたい着たから、背中のチャック閉めてくれ」
お許しが出たので、俺は控えめにスーハーと深呼吸してからすっと眼鏡を取った。裸眼だと若干ぼやけるけれども、後で距離を詰めれば問題ない話だ。ついでに下を向いてぐしゃぐしゃと前髪を崩し、できるだけナチュラルに手櫛で整えなおす。チャックを閉めるべく振り向くと、こちらに背を向けて閉めやすいよう俯き加減に待機している薪さんがいた。綺麗な襟足にドキッとするが、ピヨ顔がかかっているのだ。ここで襲い掛かるわけにも行かない。
もうすぐ、もうすぐですからね薪さん。今あなたの王子が目の前に――ってなんか泣きたくなってきたんですけど…。
でも、ガンバレ俺!今の薪さんの王子は俺なんだから、自信を持て!
とりあえず、薪さんのスイッチを入れられるかどうかが勝負だ。用心深い薪さんのこと、二度目のチャンスはないと心してかからなくちゃいけない。
(いざ…!!)
「動かないで下さいね」
ジジジジジ…。ファスナーを上げると、インコの頭部――フード部分をすっぽりと後頭部から被せてやる。そのまま俺は薪さんの肩に手をかけて、回転台に乗せたケーキを扱うようにゆっくりとこっちを向かせた。手を振り払われる心配もあったが、恥ずかしいのか照れているのか、薪さんはおとなしくされるがままだ。
くるくるくる、と少しずつ薪さんの身体が回転し、俺の方を向く。
「…やっぱ変じゃないか?ゆるキャラじゃあるまいし…」
どうやら、回転中のインコ薪さんが終始おとなしくかつ俯き加減のままだったのは、ぽこっとわずかに膨らんだ腹部やリアルなフォルムになった翼の部分が気になってちらちらとチェックしていたせいだだったらしい。
薪さんは両手を広げパタパタと鳥らしく羽ばたく真似をしてからそんな自分に失笑すると、「こんなの、猫の方がよっぽど可愛い気がするけど…」と言いながら、ハタと顔を上げた。ようやくその目がまともにこちらを見る。
次の瞬間、その目はみるみる見開かれ、途切れた言葉の先は続かずに小さな唇が「す」の形を作って止まった。
黄緑の羽がゆっくりと持ち上がり、俺の二の腕におずおずと触れる。
「すずき…っ?」
近づいてきた琥珀色の瞳が潤みを帯びて揺れている。こちらを見上げた視線を動かすことなく歩み寄ってきた薪さんが辿りついた俺の胸に額を押し付けると、インコの嘴がコツンと肩に当たった。
「どこ行ってたんだ、ずっと探してたのに…っ」
ふり絞るようにそう言って、薪さんは翼を回して俺をぎゅっと抱きしめた。
――あぁ鈴木さん、ごめんなさい!いや、薪さんごめんなさい。俺、青木なんです…。
でも…。
(可愛い…っ)
あとはその可愛いらしい表情を、もっとこっちによく見せてもらえれば…。
俺は優しく薪さんの身体を離すと、伏せられたままの長い睫に見とれながらその頬に左手を添えた。瞬きをひとつしてから、薪さんがふっと顔を上げる。わずかに開いた桜色の唇、そこから漏れる震える甘やかな吐息、薄く染まった頬。そして、無垢の結晶のような双眸……。
(あぁ……これが)
これが!世に言うバンビアイズなんですね…!?
ジーン、と胸が熱くなる。このままずっと時間が止まっちゃえばいいのに――でも、そうはいかない。
鈴木さんすみません、あなたは甘いです。止まったままの時を動かすなら、指パッチンじゃなくキス!昔から姫にかけられた魔法を解くのは王子のキスと相場が決まっているんです――多分。
あなたがなしえなかったこと、かわりに俺が叶えて進ぜましょう…!
薪さんはじっとこちらを見つめたまま微動だにしない。俺はその頬に添えていた手を顎に滑らせこちら向きに顔を上げさせると、まるで待っているかのように微かに開いたままの唇に吸い寄せられるようにゆっくりと顔を近づけていった。薪さんはそれでも、目を閉じようともせずにじっと立ったままだ。そんなところも初心な感じで可愛らしい。俺はその瞬間の表情を見られないことを心底惜しく思いながらも、そっと目を閉じた。
(これからは、永遠に俺があなたの王子です――)
「薪……」
さん、と続けて言わなかったのは、おそらくこの時の俺がなりきり鈴木さん状態に酔っていたからだろう。そう、だってこれはおふざけではなく真剣勝負だったから。
――が。
ビュッ!!と耳元で風が鳴ったような気がした。
だがそれを確認する暇もなく、真横からの高速ビンタをいつもより大きな手――いや翼によって喰らわされた俺は、あっという間に後方へと軽く吹っ飛ばされて尻もちをついていた。
「――!?」
一瞬、何が起こったのかわからない。でもぶたれた頬は痺れ、床に打ち付けた腰からは脳にかけて鈍い衝撃が伝わっていた。
(え?)
(ええっ?)
もしかして俺、あのピヨ薪さんに吹っ飛ばされ――?薪さん、いつからこんな怪力になったんですか?もしかして今の、生霊パワー…!?
「何が『薪』だ。おまえが僕を呼び捨てにするなんて千年は早い!」
さっきまでのバンビさん――いやピヨ薪さんはどこへやら、氷点下の眼差しが威圧感たっぷりに俺を見下ろしてくる。そうしてそのまま、薪さんは「あー動きにくい」とぼやくと、俺にビンタを食らわした羽をブンブンと上下に振った。あれだけ力を込めてぶったのだ。薪さんの方も手が痺れているのだろう…って冷静に分析している場合ではなくて。
薪さん…今のピヨピヨはまさか演技……?もしかしてハメられたのは俺の方……?
「お前の考えることなんて9割がたお見通しだと何度言ったらわかるんだ。どうせ新装版を見てよからぬ妄想に走ったんだろううが残念だったな」
お見通し…一体どこからお見通し?(心の一句)

   ※   ※   ※   ※   ※

あまりのショックにしばらく動けなくなってしまった俺の前で、先ほどから薪さんはよいしょと腰を下ろし、着ぐるみの腹部をぷにょぷにょと翼で押して遊んでいた。変なの、と呟いて小さく笑っている。よほど触り心地がいいようで、そこだけはお気に召したようだ。そんな愛らしい姿がけれどもぼやけて見えることに気がついて、俺はあぁそうか、と外してあった眼鏡を掛けなおした。あんなビンタが飛んで来たんだから、事前に外しておいて良かった…。
「今日はまぁいいとして…今後は鈴木をネタに自虐プレイはしないように」
不意に思い出したように、薪さんは俺に向かってそんなことを言う。極めて何でもないことのように。
「おまえが鈴木に拘るのはきっと僕のせいだよな…でも、鈴木は確かに僕の初恋だけど、別にそれが実ったわけじゃない。それでも愛だの恋だのよりずっと――あいつは本当に僕にとって無二だったんだ」
「……ハイ」
やっぱり、初恋だったんですね、鈴木さん…。すみません、そんな大事な想いを利用するような真似しちゃって。
俺は馬鹿だ。自分の浅はかさが恥ずかしくなって、何となくもう薪さんの顔が見られない…インコまで被せちゃって、ほんとすみません。
しょげている俺の傍に、器用に羽を使って座ったままの薪さんが寄ってくる。もうその顔は怒っているわけでも呆れているわけでもなく、いつもの俺がよく知る薪さんだった。そう、俺が好きになったのは、この薪さんだったじゃないか。
やはり視線を合わせ辛く俯いてしまう俺を、薪さんはただ傍で見つめるばかりで何も言わない。視界の端にあったインコの翼の中にあるだろう薪さんの手に、俺はおそるおそる自分の手を重ねた。このやるせなさを紛らわすために、薪さんのぬくもりを少しでも感じたかったのだけど…そうか、早くこれ取らないと、手もつなげないんだな。
「薪さん…あなたが好きです」
翼の上に乗った俺の手に目を落とした薪さんに向けて、俺はこれまでにも何度言ったかわからない台詞を繰り返した。
「うん…それ12巻のあれだろ?鈴木も岡部も雪子さんも、みんな僕が好きだっていう…そう言えば12巻は今日発売だったか?次のプロフは誰のだろうな」
「茶化さないでくださいよ…すごくすごく好きなんだから。あの頃よりずっと」
「……知ってるよ」
ちょっと困ったように笑って、薪さんは小さく頷いた。
「だからどうか、俺をずっと特別にしておいて欲しいんです。一番でいたいんです」
「それはおまえの頑張り次第かな…せいぜい頑張って現状をキープしてくれ。勿論今以上になってくれるのも大歓迎だ」
薪さんはふっと微笑んで、さっき何度も俺がしかけたのを真似るように、手が入ったままの空いた方の翼をそっと俺の頬に当てて顔を引き寄せた。俺の唇より少しだけ冷たい薪さんの唇が、わずかに触れるだけのキス。短くてもそれは俺には真似できないようなとても優しいキスで――うっかり泣きそうになってしまう。
唇が離れると、近づいてきた時とは反対に何故かパッと素早く後ろに下がり中途半端に俺から距離を取った薪さんは、おもむろに被っていたフードを取った。パタパタと羽で顔を扇ぎだす。ええっと…相変わらずムードとかどうでもいいんですね。俺、ちょっと泣きそうだったんですけど…。
でもそうか。暑いんでしたよね?くっつくとなおさら暑いですよね…、おまけに俺むさくるしくて…すみません。
「これ、ほんと暑い…空気穴はないのか」
「……そりゃあ冬でも汗ばむくらいですし…そこは着ぐるみですから」
蒸れる、と言って、薪さんは顔をしかめた。もうそろそろ昼間は上着を着たまま外を歩くと軽く汗ばむことも多いのだ。生霊だから皮膚呼吸とか気にしなくてもオーケーなのかな?なんてことも思ったのだが、そんなわけにはいかなかったらしい。
そうか…さっきはひどいと思ったけど、一応お見通しだったに俺の策略に乗ってくれたんだよな、この人…着ぐるみ、蒸し暑いのに。そう思うと、ちょっと嬉しくなってようやく俺はこの事態がおかしくなってきた。
ありがとうございます、これからしばらくは、コスプレシーズンオフということで…見納めのつもりにしておきますので。
そんなことを考えながら心の中で薪さんに手を合わせ拝もうとしていた俺の目の前に、唐突にぬっと黄色い翼が突き出された。
「ん」
短く言って、薪さんはこちらに向かって腕を――いや、腕の入った羽根の部分をさらに伸ばしてよこす。
「……え?これで両手握手…ですか?」
「……お子様相手の着ぐるみショーじゃないんだぞ。おまえ、いざという時のその察しの悪さいい加減なんとかならないのか」
「いざ…?今がですか?」
何がいざ?と問いたいところだったが、薪さんの顔を窺えば、これ以上言うと殴るぞ、と書いてあったので呑み込んだ。さっきはあんなに優しい目をしてくれたのに、七変化である。別に俺の察しが特段悪いわけではないと思う。薪さんが言葉足らずなのだ。
「ボーッとしないで早く脱がせろ。この翼が邪魔で手が使えない。僕が暑さで倒れてもいいのか?」
「えっ、そんなに限界が?脱いじゃうのはもったいないですけど…すみません、短時間でしたが堪能できました。ありがとうございました」
「言っとくけどインコなんて正直不本意にも程があるんだからな。このフォルムじゃコミカル過ぎて僕の魅力が半減だ」
今度着ぐるみ買うなら実店舗にしろ、必ず僕も同行する、いいな、と念を押すと、薪さんは大仰に溜息をついた。
「インコ、そんなに不評なんですか?すごくよく似合われてましたけど…いつもの猫耳くらい」
「似合ってたまるか失礼だな!全然可愛くないじゃないか。だいたいおまえ、普通ピヨピヨって言ったらヒヨコと相場が決まってるだろ。なんでインコになるんだ」
「――」
……あ!
ヒヨコ、という単語に、俺はようやく自分が致命的なミスをしでかしたことに気づいた。…そうだ。そうだった。ヒヨコこそピヨピヨじゃないか!
それなのに、なんでインコになったんだろう。すみません、と何故か謝る羽目になりながら、俺は身を屈めて早く脱がせて、とせっつく薪さんの求めに応じた。脱がせて、なんて魅惑的なセリフを言われているというのに、シチュエーション的に色気の欠片もない。
背中のファスナーを下ろし、向き合って翼を引っ張りながら腕が抜けやすくしてやる。両手が自由になると、薪さんはホッとした様子で少しだけ笑顔になった。
着ぐるみを脱げばいつものTシャツ短パン姿の薪さんに当然だが戻ってしまうわけだが――演技とは言え、さっきの無垢であどけなくさえあった薪さんの表情を思い出し、俺はそっと吐息した。
(あれは本当に…たまりませんよね?あんな目で見つめられたら…ねぇ?鈴木さん…)
…い、いや。ここで同意を求めるとかおかしいおかしい。鈴木さんは別に同志ではないんだから。
とりあえず、たとえ幻のような一瞬でも、あんな顔を見せてもらえて良かったと思おう。
「あのー…、もうヒヨコのリベンジはないですよ…ねぇ?」
お行儀よく脱いだ着ぐるみを畳んでいく薪さんを見守りながら、俺はおそるおそる問うてみる。いや、さっきもうコスプレはシーズンオフとか思いましたけど。反省もしましたけど、実店舗に行っていただけるのでしたら。
「当たり前だ」
顔も上げることなく、薪さんからは即答が返った。すみません図に乗りました…。
「…だいたいおまえ、どうして気づかない」
片づけの手は休めることなく、薪さんがポツンと呟く。
「…?」
「おまえにはひな鳥よりもっと前の姿を見せてやってるだろ」
「もっと前…?」
え…?ええっと…?それってつまり…もしかしてひょっとすると。
卵まで戻っちゃいけないんだろうし…とすると、う…生まれたての姿、とかそういう…?
カアッ、と頰が熱くなった。確かに…いや、でも騙されちゃいけない。
「その手には乗りませんよ薪さん。俺、ちゃんと読みましたからね、『可視光線』!あなた警大で鈴木さんはじめ同期の皆さんと裸のおつきあいされてたじゃないですか!まっ裸で桜木さんのこと浴場でガン見だったっじゃないですか!」
「……なんの話だ」
「とぼけても無駄です!この間完結したばっかの『可視光線』です!」
「それはわかってる。でもしっかりしろ、ここは公式ワールドではないんだ、プライベートで肌を見せるのはお前だけだから…だから今だって脱がせてって言っただろ」
「え…っ?あの――それって」
「まだ服が残ってる」
そう言うと、膝立ちのまま近付いてきた薪さんは俺の肩に手をかけた。悪戯っぽい笑みを浮かべたまま、先刻の続きのように俺の唇を奪う。遠のいた興奮が、長い口づけの間に戻ってくるのを感じた。唇が離れても薪さんは顔を離すことはなく、息がかかる距離を保ったまま俺の目を真っすぐに見つめてくる。そのわずかに濡れて輝く瞳の奥には、確かに俺を誘う熱がともっていた。
「今日はそんな気なかったんだけど…さっきうっかりキスしちゃったら止まらなくなりそうだったんだよな」
ボソッと極めて不本意そうに、そんなことを言う。何なんですかその告白!?
まさかそれであの時、あんなに高速で俺から離れた――とか?
「うんまぁ…だってまだインコだったし」
恥ずかしそうにそう言って、薪さんは傍らに畳んで置いた着ぐるみの方をそっと窺った。届いた時同様フードを上にしてあるので、インコのピヨちゃんがこっちをじっと見ている。…この置き方、やめませんか?
俺は片手で薪さんの背中に手を回し引き寄せながら、ピヨちゃんをくるっと向こう側に回転させた。何となく見られているようで落ち着かない。それを確認した薪さんが、首に手を回して抱き付いてくる。…ピヨ顔なんて見られなくたって、これに勝る幸せがあるだろうか。
いつもの猫耳に、よく動く意志を持ったしっぽ。それは紛れもなく俺の――俺だけが知っている薪さんだった。
首筋に顔を寄せ、アオキ、と俺を呼んでくれる声にいつもはあまり含まれることのない甘えた響きがあるのに気付き、俺は少しだけ嬉しくなってハイと返事をする。

「ベッド、連れて行って。コスプレなんかよりもっと楽しいこと…しよ?」

直後のハイ!!が馬鹿正直でデカすぎるという理由で即座に白けてしまい、「やっぱやめた!」となった薪さんに俺が必死で追いすがったというのは……オフレコでお願いします。




(追記)

ピヨって薪にゃんSSの超マニアック(笑)インココスプレ薪にゃんを、なみたろうさん、にゃんたろーさんが共に4/21の記事で描いてくださいました。。。ありがたくて、ハンカチ噛み締めて泣きそうですT^T
記事にリンク貼れよって感じなんですが、すみません、御二方はリンク先様ですので、どうぞリンクコーナーからお回りくださいませ(^^;;
そして実はあと、必死に青木をビンタするインコ薪にゃんなどもみなさんご存知BON子さんが描いて下さっているのですが(4/22の記事で)、BON子さんお世話になっておりますがリンク先様じゃないので(ーー;)…重ね重ねすみません、不便なんですが、ダブルたろうさんのところなどからお回りくださいませ。。。

どのインコも濃くて、薪にゃん可愛くて、もうSSいいからイラストだけ見てください!という感じです(⌒-⌒; )
お三人様、ありがとうございました!
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Comment

Name - eriemama  

Title - Re: インコって……

レスが遅くなってすみません(ーー;)

> 確かにぴよぴよっていえば普通ヒヨコですよね~。なんでインコなんでしょうねw

王道はひよこなのですが、ちょっと怖いとかダサいとか(インコに失礼)の方が薪にゃんが着たときに映えるかと(笑)

> 清水先生、青木くんはごく普通の人っていう設定で描いているみたいですけど、青木くん普通じゃないですよね? いつも斜め上どころかとんでもない方向にいってる気がしてます。

一般市民の中にはあまりいませんよね(笑)こんな風に真っ直ぐにはなかなか生きてこられないじゃないですか、時代的に(^^;;
しかもあの突飛さ(笑)対雪子さんのプロポーズは有名ですが、ヘリジャックとか上司にドッキリとかあまつさえビンタとか(ーー;)…そっちも結構すごい(笑)他人にも誠実だけど自分にも正直である意味羨ましいです。あ、薪さんの気持ちもこんな…?(え?)

> 鈴木さんだけの特権のバンビ薪さんを見たい気持ちは痛いほどわかるので(笑)

王子の特権…。羨ましいです。私も王子になって薪さんをたぶらかしーーいや、つい本音が…甘やかしたいです(⌒-⌒; )
そんな薪さんも今は青木ラブですからね…応援しましょうw

> 今回の12巻カラーイラストでまた大きく差が開いた感もありますが……

大差ですか?(笑)捜査官なかなか手厳しい評価でいらっしゃる(笑)
そうですね〜…確かに青薪すとで有名ななみたろうさんさえ鈴薪祭りに巻き込んでしまうくらいの王子の存在感ですもんね、最近(^^;;
ま、まぁ新しい連載では青木もきっと大活躍ーーハッ!今月のメロディは岡部さんと波多野ちゃんでした;;;;(青木ーっ)
2016.04.24 Sun 09:20
Edit | Reply |  

Name - たきぎ  

Title - インコって……

確かにぴよぴよっていえば普通ヒヨコですよね~。なんでインコなんでしょうねw

清水先生、青木くんはごく普通の人っていう設定で描いているみたいですけど、青木くん普通じゃないですよね? いつも斜め上どころかとんでもない方向にいってる気がしてます。

鈴木さんだけの特権のバンビ薪さんを見たい気持ちは痛いほどわかるので(笑)、青木くんを応援してますよ! 
今回の12巻カラーイラストでまた大きく差が開いた感もありますが……、でも今の薪さんはキミが好きだから! 
頑張れ、青木!

2016.04.22 Fri 19:27
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: 描いてみた

> にゃんたろーもインコぴよ薪さん描いてみましたよ!

拝見してきました!かわゆい…!
青木、萌えられるか…?(笑)でも、うちの青木&薪にゃんはこういう残念な感じの応酬を
ひたすら続けているので、こちらのような超リアルなコスプレを用意する方がらしいといえばらしいのかも(笑)
あれ?こんなはずじゃ…、みたいな感じで(^^;;
何にせよ、バカップルです(⌒-⌒; )

ありがとうございましたーっwww
大御所おふたりにイラストつけていただけて幸せモンです(≧∇≦)
2016.04.22 Fri 09:40
Edit | Reply |  

Name - ねこじゃらしにゃんたろー  

Title - 描いてみた

にゃんたろーもインコぴよ薪さん描いてみましたよ!

でもなみたろうさんと違って萌えない感じですが………

あんな感じだと思ったんだもの…………

よかったらみてみてください。

最新記事の下につけときました!
2016.04.22 Fri 01:16
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: インコ…

> 薪にゃんがインコになるという複雑な構成…ありがとうございます!笑

構成だなどというほどのものは何も…(^^;;
猫が鳥に…種を跨ぎすぎです(笑)

> で、バンビアイズになってるのも、ビンタしてるのも全部インコ姿かと思うと半笑いになってしまいます!笑 可愛いよー!

書いてる方も半笑いでした…(大笑いはなかなか狙えません)。あ、猫、鳥に加えバンビも混ざっている(-。-;動物王国…?

> 最終的にムラムラしてる薪にゃんがいいですね。(そこ?)

いいですか?良かった…(ホッ)
クールに見せてますが、青木にメロメロですからねぇ…もう生霊飛ばす時点であなた、そう(どう?)なんでしょ?という感じです(笑)
2016.04.21 Thu 23:36
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: たしかに……

Re: たしかに……
> あのバンビアイズはたまらないですよね!

あれを見るために鈴木さんになりたい、は私の妄想上の野望です(笑)
今回、青木に託しました。

> しかし演技………!?まさかの!?
> いやもう演技でもなんでもいいです!青木もすっかりやられてます!

普段は大根なのに薪にゃんになるとアカデミー賞級になる薪さんです(笑)

> >(これからは、永遠に俺があなたの王子です――)
> って一応がんばってキザなことを思ってみる青木くんが好きです

アハハ、ここ、言われてみればキザ加減で鈴木さんに張り合ってるんだ(笑)
ちょっとイタイですよね、やっぱ(^^;;
2016.04.21 Thu 23:23
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: ま、薪さ……

> あなたあのバンビアイズ演技で出来るんですかっ(゜ロ゜)てことはやっぱ、
> あざとい!!

薪にゃん最大の魅力はあざと可愛さではないかと(笑)
薪にゃん、演技力は映画化に向け斗真くんに対抗して密かに磨いた模様です。今回は実地演習ですw

> で、青木、なんか散々だったけど一応見れて良かったね(泣)

はい(泣)
青木が見たであろうインコ薪にゃん、本当にありがとうございました!
イメージドンピシャで一瞬脳を遠隔スキャンされたのかと思いましたよ(笑)

> そして薪にゃんは些細なことで萎えるってなんかもう、気まぐれな彼女か!?

気まぐれな彼女!(笑)ウケましたコレ…青木も苦労しますね(^^;;
2016.04.21 Thu 23:21
Edit | Reply |  

Name - BON子  

Title - インコ…

薪にゃんがインコになるという複雑な構成…ありがとうございます!笑
インコ着ようとしてるのが可愛くて…
で、バンビアイズになってるのも、ビンタしてるのも全部インコ姿かと思うと半笑いになってしまいます!笑 可愛いよー!

で、やっぱりなみたろうさん言われる通り、あざとかったか…笑

青木、髪型で寄せようとするところが可愛いよ、君も。
最終的にムラムラしてる薪にゃんがいいですね。(そこ?)
2016.04.21 Thu 00:58
Edit | Reply |  

Name - ねこじゃらしにゃんたろー  

Title - たしかに……

あのバンビアイズはたまらないですよね!

しかし演技………!?まさかの!?
いやもう演技でもなんでもいいです!青木もすっかりやられてます!

あとピヨピヨだったらいんこじゃなくてひよこってたしかに。
でも鈴木さんに化ける(?)ことにプライドとかはない青木が好きです。

>(これからは、永遠に俺があなたの王子です――)
って一応がんばってキザなことを思ってみる青木くんが好きです

楽しいSSをありがとうございました〜(^0^/)
2016.04.21 Thu 00:44
Edit | Reply |  

Name - なみたろう  

Title - ま、薪さ……

違った薪にゃん。
あなたあのバンビアイズ演技で出来るんですかっ(゜ロ゜)てことはやっぱ、

あざとい!!

いやあざとくても可愛いです!(°▽°)
あれに落ちない男はいないと思います!

で、青木、なんか散々だったけど一応見れて良かったね(泣)
そして薪にゃんは些細なことで萎えるってなんかもう、気まぐれな彼女か!?
はあ、もう、薪にゃんのインコ姿が頭から離れません。どうしよう。
2016.04.21 Thu 00:12
Edit | Reply |  

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