GARDEN CITY LIFE~annex~

お越しいただきありがとうございます。当ブログは清水玲子先生の『秘密』のレビュー(時にネタバレ)と二次創作(こちらは一部BL要素含)のざっくり二部構成になっております。記事は単純に日付順に表示されておりますので、お読み頂く際はサイドバーや記事一覧などでカテゴリーをご確認またはセレクト頂けますと安心、安全です<(_ _*)>

薪にゃんと一緒(虹を見上げて・前編) 

ごめんなさい薪にゃんです。最近よくやる非深夜&非青木の部屋シリーズです。きっと清水先生もお好きな(?)パラレルワールド(のパラレルワールド)、別世界なのでしょう(-_-;)。ややこしい話な上にややこしいところに挟んでます、鈴薪SSの続きではありません…。

先日、日没前の空に大きな虹がかかりました。超文系の私には詳しいことはわかりませんが、その時間帯にかかる虹のアーチは大きくなるのだそうです。いくつになっても、虹って見つけると嬉しいもんです。見て見て、と誰かに教えたくなります。お子様でしょうか?(^^;

※上から順に読んでいただけるよう、前編を後からアップしなおして上に来るようにしました。後編は下の記事になります。



薪にゃんと一緒(虹を見上げて・前編)


 パンパンと音をさせてしわを伸ばしてから、最後に洗いたてのシーツを竿に干す。洗濯物を総て干し終わり、俺について外に出てきたはずの薪さんの気配が希薄なのに気付いて振り向くと、その人は庭の隅に積み上げたレンガの上に腰を下ろし、背中を丸めて物思いに耽っているところだった。膝に片肘をのせて頬杖をついている。目線は少し先の地面の一点に注がれていたが、そこを見ているわけではなさそうだ。
 そのしんとした美しい横顔を、俺は水やりの準備をしながら何度もこっそりと窺った。言葉はもちろん、どんな感情も漏れださないよう完全にシャットアウトしたこういう時の薪さんには、いくら猫耳モードでもやはり声をかけ辛い。
 いつもならこうして無遠慮に見つめていればすぐに視線に気がつき、すぐさまピンと猫耳を立てて「何見てんだ」と睨んでくるころだが、今朝は内へと向かう意識が俺の視線を気に留める気配はない。朝起きるなり俺を叩き起こし、その後も小さい子供のように俺の後をついて来てはとりとめのない話をしたり小言を言ったりしていた喧しさが嘘のように静かだ。ここの所、薪さんには情緒に結構な波がある。…言ったら殺されそうだけど、更年期だろうか。
 そう言えば少し前の話だが、眠っている俺に遠慮したのか一人で起き出しておやつを作ってくれていた薪さんが、突然目の前で泣き出したことがあった。すぐに落ち着いたので何があったのかは問い詰めなかったし薪さんも話さなかったけれど、それ以来この人はこんな風に目を離すとじっと考えことをしていることが増えていた。
 水やりが終わったら最近元気がいい雑草を抜いてしまおうと思っていたが、明日に回して中でゆっくり過ごした方がいいのかもしれない。
 そんな風に思いながら、そろそろ盛りを迎えている紫陽花に散水用のシャワーホースを向けた。今日のようによく晴れた日は、午前中でも日射しがきつく汗ばんでくる。もう本格的な夏はそこなのだ。
 薪さんは部屋着にしているTシャツの上に薄手のパーカーを羽織っていたが、下はショートパンツといういで立ちだ。長く外で過ごしていればその透き通るように色の白い肌が日焼けしてしまいそうで心配になる。いつも好んで腰を落ち着ける定位置はだいたい決まっているから、今度そこにパラソルでも用意しておかないと。
 俺は手元のレバーを少し強めに握りなおして作業を急いだ。
 それまでじっと黙りこくっていた薪さんが、不意に「あっ!」と声を上げたのはその時だった。
「え!?何ですどうしました?」
「虹が出てる」
 水しぶきが上がる先を見つめていた顔がふわっとほころぶ。その細長く綺麗な指は、俺が持っているホースの先の方を指していた。
「虹…ですか?」
 俺の方からはよく見えないけれど…。
「うん、虹が出る角度にぴったりハマったみたいだ」
 久しぶりに見たなぁ、と言って立ち上がると、薪さんは珍しく可愛らしさ全開でニコニコと笑いながら俺の方に右手を差し出した。
「それ、代わって」
「?虹はもういいんですか?」
 ふるふると首を振っていいんだと言うと、「おまえもそこに座ったら見えるぞ」と俺にさっきまで自分が座っていた場所を笑顔ですすめてくれる。…なんて殊勝な。
 ささやかな心遣いにいたく感動した俺がそこに座ると、薪さんは太陽を背に立ちさっき俺がしていたのと同じ角度でホースを傾けた。ふわっと細かい霧のような水しぶきが上がり、その先に小さいアーチを描いて虹がかかる。ホントだ、と俺が笑うと、綺麗だろ?と薪さんは得意げに応じた。
 虹の向こう側で頬笑む薪さんからはさっきまでの張りつめた空気は消え、かわりにとても優しく穏やかな空気に包まれて見えた。この人の透明感には、きっと虹の女神だって嫉妬するに違いない。俺は無心になってしばし目の前の淡い輝きとそれを生み出している美しい人に見とれた。
 だが、同じ角度を作ってじっとホースのグリップを握っているのに疲れたのか、薪さんの手元が微妙に角度と向きを変える。「ん?」とその変化の不自然さを訝しく思った時には、シャワーホースがまっすぐに俺の方に向いていた。
「わっ!?」
 殆ど何を言う暇もなく、頭上から若干勢いの増したシャワーが降り注いでくる。両手で防ごうにも間に合わない――まるで夕立のようだ。
「ちょっと!!薪さん!?止めて下さいよ!」
「隙あり!」
「ええっ!?」
 手元が狂ったのかと思ったが、どうやら確信犯だったようだ。
 愕然と薪さんを仰ぐ。当然だが、その口許に浮かんでいる笑みは、さっきまでの可愛らしいそれではなくしたり顔のそれだ。
 まったく油断も隙も無い。そんな悪だくみをしているとも気づかず、うっとりとその美貌に魅入ってしまっていたさっきの自分が悔やまれた。
 てっきり幸せのおすそ分けかと思い感動さえしていたというのに、がっかり過ぎる現実に軽い眩暈を憶える。…いや、これでこそ薪さんなのだけれど。確かに俺の望む元気な薪さんな気がするのだけど。
 濡れて額に張り付いた前髪をかき上げて、俺は悪戯作戦成功にすっかりご満悦のその人を呆れ顔で見返した。頭からいい具合に濡れそぼり呆然としている俺は、不本意ながらご期待以上にご期待に応えてしまったに違いない。身体をくの字に折りお腹を抱えるようにして苦しげに声をあげて笑う姿は、猫耳としっぽというオプションもあいまってさながら子供のように無邪気で、いっそそのまま抱きすくめたいくらい可愛い。
 でも。
 こういう悪さをするとどうなるか――思い知っていただこうじゃないか。

(続く)
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