薪にゃんと一緒(お邪魔します編 sect.2)


薪にゃんと一緒(お邪魔します編 sect.2)


ポンポン、と俺の頭を撫でるようにタッチしたかと思うと、薪さんはよいしょと立ち上がって踵を返し、まっすぐにドアの方へと向かった。
「薪さん?どちらへ?」
床に座り込んだまま、俺はパジャマの背中に声をかけた。
「どこって…寝室だけど?」
え……それってもしかて、誘って……。
「誤解するな、ただ眠いだけで他意はない。おまえは着いてこなくていいから」
肩越しに振り向いた薪さんは、目を眇めるとまるで俺の考えを読んだかのようにそう釘をさす。……何も言ってないですよ?俺は何も。
「それと…言っておくが犬は寝室には出入り禁止だ。ベッドに毛が付くの、耐えられない」
それどっかで聞いた台詞――というか、そもそも俺が犬化(?)しているのはしっぽのみ、そこまで犬扱いされなきゃいけない程人からかけ離れちゃいない。
「……そうは仰いますけど、俺、そんなに犬犬してないですよね!?人間の青木、ですよね?」
「そうだな」
あっさりと首肯した薪さんに拍子抜けした。だったらどうして犬呼ばわり…。
「そうだな、って、今犬って言ったじゃないですか」
ゆっくりと今度は身体ごと振り向いて、薪さんは小さく笑った。
「おまえの言うとおり、それほど大きな変化が起きているわけじゃない、そういうことだ。もう立ち直ったか?おまえはなんだかんだ言って、僕よりそのあたりは柔軟なんじゃないかと心配はしてなかったけど」
「――」
「そんなに動揺するな、大したことじゃない。僕に今まで起きていたことがどういうわけかおまえにも起きた、それだけのことだ。せっかく来たんだから、今日はゆっくりして行けばどうだ?僕がいつもおまえの部屋でそうしているように」
ゆっくり…いつも俺の部屋で薪さんがしているように?……ええと。それは勝手知ったる他人の家、で遠慮なく、態度は大きめにくつろげと?
「そうか……そうですよね、せっかくの機会だし、ちょっとびっくりしたけどなし崩しとはいえ初のお邪魔しますが叶ったわけですし」
さっきの既視感、それはきっと鈴木さんのMRIのせいだ。実際の俺は、薪さんの部屋に足を踏み入れたことはない。こんな仲になる前に俺たちは遠距離になっていたわけで、MRIの記憶にしても、数年前のもの。殆どの部分はおぼろげだった(だってぶっちゃけ変に色っぽい鈴木さんビジョンの薪さんが強烈なインパクトで、部屋の印象は薄いのだ)。この機会にゆっくりと隅々まで見学、堪能させていただけばいいんじゃないだろうか。幸い薪さんは俺と違って一人暮らし、家族の目を気にする必要もない。
(薪さんの家……)
ということは、ここは薪さんの私物だらけ。普段薪さんが使っているもの、薪さんが触れているもの、薪さんが――薪さん?
そこまで来て、俺はようやく落ち着いて目にした薪さんの姿に今頃になってドキッとした。当たり前だけれど今、目の前にいる薪さんはスーツ姿でもなければいつも遊びに来る時の生霊スタイル(短パンTシャツとかモフモフセーターとか)でもない。
見るからに肌触りの良さそうな華奢な身体を包んでいる紺色のパジャマはシルクだろうか?その上に羽織っている薄手のカーディガンはワンサイズ大きいのか肩が少し落ちているうえに袖の丈も体格に合っておらず、袖口からは指先がちらりと見える程度だった。このちょっとセレブ感も漂う無防備な可愛らしさで俺の背中に馬乗りになって銃を突き付けていたのかと思うと、苦笑せずにはいられなかった。見た目とすることのギャップはいつものことだけど……。
それから。
改めてゆっくりと息をすれば鼻腔に感じる、「薪さんの家」の匂い。
(そうだ、どうして気づかなかったんだろう…ここはこんなにこの人の匂いがしているのに)
ってやっぱりここで匂いにまず感覚がいくのは犬化のせいなのか!?猫耳の薪さんが異様に地獄耳なのと一緒で身体ももしかしてちょっと変化している、そうなのか!?ちょっと遠のきかけた不安が再び襲ってきて、俺はハッと自分の鼻に手をやった。良かった、触った感じじゃ何も変わりはないようだ。
「?青木?どうした?ぼんやりしたりニヤケたり青ざめたりして忙しいやつだな……。とりあえずおまえ、そろそろ床に座りこむのはやめたらどうだ?いい加減冷えるぞ」
そう言うと薪さんは俺の横を通り過ぎてリビングの奥にあるソファへと向かって行った。そこにかけてあったブランケットを手にして、すぐにこちらに戻ってくる。
「ほら。今毛布をとってきてやるからそれまでこれでもかぶっておけ」
手にしたブランケットをこちらに放ってよこし、つとめて素っ気なく言い置いて俺から離れていく薪さんの手首を、慌てて掴んで引き戻した。
「待ってください」
「?」
あからさまに眉を寄せ、鬱陶しい、と書いた顔でこちらを見下ろす、綺麗な目。どんなに不快な感情が湛えられていても、相変わらずこの人の瞳は世界一綺麗だ。
「すみません、ちょっと確かめておきたいことがあって」
立ち上がって俺が言うと、薪さんは表情を改めて静かに頷いた。それはまるで仕事で確認したいことを訊きに来た部下の言葉に耳を傾ける時のような仕草で、でも恰好はパジャマ…ううっ、カワイイ!可愛いです薪さん!できることなら目の前のこの人をお姫様抱っこして寝室に駆け込んで、そのまま二人でベッドにダイブしたい…。
「何だ?」
薪さんからしてみれば生霊トリップの先輩として後輩の疑問に答えてやろう、そういうところだったのかもしれない。頼もしく促してくる。――こちらを上目遣いに見上げるその仕草は、少年というより少女のようで……。
……今、応えて欲しいのはもっと別のことかもしれない…とか言うと本当にさっきの銃が火を噴きそうだけど。ひょっとして、生霊なら撃たれても問題なのか?なんて思ってしまう俺はいよいよ危ないかもしれない。
逸る心を抑えて、俺はカーディガンの袖口からのぞく小ぶりな掌に手を伸ばすと、そのまま少し持ち上げてにぎにぎと感触を確かめてみた。本当に、現実に触っているのと何ら変わらない。体温が感じられるし、きめ細かい肌の質感までしっかりとわかる。
「リアルにここにいるみたいですね、こうやってちゃんと触れられて…あたたかいです」
「僕とおまえのシチュエーションが入れ替わっただけで他は僕がおまえのところに行った時と一緒なんだから、それはわかってるだろ?寒いとか暑いとかも感じるし、柔らかいとか硬いともわかるし、痛みだってある」
そう言うと、薪さんは何を思ったのか急に気まずそうに目を逸らして言いにくそうに口ごもった。
「そ、その……気持ちいいとかも、生身と同じに感じるし」
「あ、それはエッチの時の薪さんを見いればわかります」
「だったら他もわかるだろうが!!一体何を確認したいんだ今さら!!」
顔を真っ赤にしてそう言うと、薪さんはブンッ、と俺が掴んでいた手を振り払った。
「人が真面目に話をしてるのに!」
「すみません、でも俺も別にふざけてるわけじゃなくて……」
そう、そりゃあちょっと邪な方にブレたりもしちゃうけど、基本的には真面目なつもりだ。俺が確認したいこと――知りたいのは。
今しがた振り払われたばかりの手で、ぎゅっと力いっぱいに薪さんを抱きしめる。一瞬腕の中で身を固くしたものの、すぐにその身体からは強張りが解けて行った。
「……」
躊躇いがちに動いた細い腕が、やがて呼応するように俺の身体を抱き返してくれる。体温が伝わるだけじゃない。ちゃんと感じることのできる、心地良い安らぎ。満たされる幸福。そしてほんの僅かな、胸の奥を締め付けるような甘い切なさ。それらすべては、疑いようもなく俺の本物の感情だった。
同じだ。いつも俺の部屋で、この人を抱きしめる時と……何も変わらない。
じゃあ、きっと薪さんも同じなのだ。生身だろうが生き霊だろうが、本質は変わらない。不安や戸惑いを抱く要素など、どこにも見当たりはしなかった。俺が伝えてきたものはちゃんと薪さんに届いているし、薪さんから感じとってきたものも間違いなく本物だ、と確信することができた。これまでに重ねてきた時間は、夢でも幻でもないと。
「なんてことになっちゃったんだろうって思ったけど……何かの間違いだとしても俺、しっぽが生えたってここに来られて良かったです」
「……立ち直りの早いヤツ」
呆れてように呟いて、薪さんは俺の背中に回していた腕を離した。その手が、俺の頬を包み込む。まっすぐに視線を合わせてくる双眸は潤みを帯び、輝いて見えた。その瞳がそっと閉じられるのを待って、唇を重ねる。
薪さんの味だ。
そう思った途端、グゥ、とお腹が鳴った。


(つづく)

新語:「犬犬してない」犬らしくない。犬の風情が感じられず、犬からは遠い感じだ。犬かもしれないが、はっきりとはしない様などにも用いる。←どんな?;;;;
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Comments 4

eriemama  

Re: 記憶はあったんですね!

> 薪さんに薪にゃんの記憶があるのかないのか……。
> わたしも実は気になってましたが、ちゃんとあったのですね!
> よかったよかった……!

ありがとうございます、気にして下さっていた( ;∀;)。
薪にゃん、最初は自覚なかったのですがトイレで覚醒しましたからね…(笑)でも相変わらず、うちの薪にゃんと薪さんは同一人物という設定でありながら二重人格のよう(^^;)激しく裏表です。

> そして鼻!!鼻押さえる青木くん!(笑)

(^▽^;)フガフガしてないか心配になったんですよ、きっと(笑)

> そして萌え袖、そのカーディガンはどなたの……
> ま、まさか鈴木の置き土産じゃ………!ダメよ!!

にゃんたろーさん、さすがです!王子の、ちょっと毛玉ができたりしちゃってるけど元がいいのでまだまだ綺麗な白カーデ、をイメージしております。十年選手どころか何年物なんだろう(-_-;)
鈴薪派のわたくしとしましては青薪SSにそれとなく忍ばせる王子の影がもうたまらん楽しぃー!!なのですが(笑)、熱烈な青薪派の方には見放されますね(;´Д`)
カーデに限らず実は薪さんピヨ時代からのゆかりの品色々持ってる……かもしれない(笑)青木がそれを嗅ぎつける日はくるんでしょうか……。

いや、でもありません?元カレにもらったアクセサリーとか別れると速攻、もしくは次のカレができるとすぐ捨ててしまう人と、物に罪はないって気にせず使い続ける人と……ってちょっと違うか(笑)
薪さんは「これは形見だから…」っていうより単純に物持ちがいいだけかもしれませんけどね(^^;)

鈴木にもらったからとか鈴木が使ったから特別なわけじゃない、便利だしまだまだ着られるんだから捨てなくてもいいだろう、と未練がましい自分に言い訳していつまでも傍に……。でもそれは表向きの話で、やりきれない夜は時々そこに王子の面影を見てしんみりしたりクンクンしてみたりはあったかも――ヤダヤダ、危ないよ薪しゃん(←その妄想が危ない;;)、青木犬すごいヤキモチ焼きだから!←多分公式

2016/10/26 (Wed) 09:43 | EDIT | REPLY |   

ねこじゃらしにゃんたろー  

記憶はあったんですね!

薪さんに薪にゃんの記憶があるのかないのか……。

わたしも実は気になってましたが、ちゃんとあったのですね!
よかったよかった……!


そして鼻!!鼻押さえる青木くん!(笑)

そして萌え袖、そのカーディガンはどなたの……
ま、まさか鈴木の置き土産じゃ………!ダメよ!!


2016/10/25 (Tue) 23:50 | EDIT | REPLY |   

eriemama  

Re: 犬かもしれないが犬ではない(爆)

> きゃあ。今日ずっと待ってました!

ありがとうございます(^^)
でも、大した展開もなく…(;'∀')申し訳ないです;;;;
一応萌え袖で誤魔化してみましたが、誤魔化せたかどうか(笑)

> ああ~、それ確かめたかったのか青木犬。
> 私も以前に、薪にゃんは薪さんなのか?薪さんの生き霊だけど二人はイコールでほんとに本体と青木は恋人と言えるのか?みたいな疑問、ちょっと書かれた時のことがずっと引っ掛かってたのです。

そんなん憶えてるの私かなみたろうさんくらいでは(笑)
いや、青木のことだから「後で考えよう」からの放置、もしくは「どうでもいいんです」した可能性もあるかなぁって思ったんですが、うやむやにせずちゃんと気にしてもらいました←原作青木への期待

> で、パジャマ脱がしてそこら中ふがふがしないのかい青木犬?

ふがふが(笑)狙ったんですが相手が薪にゃんではないので…手ごわかったんですねぇ。失敗したのでふたりとも何事もなかった風を装ってます(笑)リベンジはまたの機会に…

2016/10/25 (Tue) 12:39 | EDIT | REPLY |   

なみたろう  

犬かもしれないが犬ではない(爆)

きゃあ。今日ずっと待ってました!
薪しゃんの萌え袖!!( ;∀;)

ああ~、それ確かめたかったのか青木犬。
私も以前に、薪にゃんは薪さんなのか?薪さんの生き霊だけど二人はイコールでほんとに本体と青木は恋人と言えるのか?みたいな疑問、ちょっと書かれた時のことがずっと引っ掛かってたのです。
良かったねぇ青木犬。(連呼)

で、パジャマ脱がしてそこら中ふがふがしないのかい青木犬?

2016/10/24 (Mon) 23:40 | EDIT | REPLY |   

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