薪にゃんと一緒(お邪魔します編 sect.3)

だいぶ遠い昔に書いていたような気がするのですが、メロディ12月号のレビュー前に書いていたお話の続きです。
くだらない話なのに無駄にひっぱって申し訳ないんですが、前回までのお話はこちらです→sect.1 sect.2



薪にゃんと一緒(お邪魔します編 sect.3)


「……何だ今のは」
ふ、と唇が離れる。じっとこっちを見上げる薪さんは、恐ろしいほど真顔だった。
「す、すみません……お腹が」
「気が緩み過ぎだ」
ええっと、今って仕事中でしたっけ?
「だからすみません……でも薪さんが悪いんですよ?今日はまた一段とおいしそうだから」
「僕は料理じゃない」
「いや、だから今のはですね、別にうまそうだなこいつ食ってやろうか!?というオオカミ的なニュアンスではなく、薪さんの可愛らしさとか美しさをですね」
「解説してもらわなくても結構だ。どうせやらしい方の意味なんだろ?…まったくおまえってやつはいつもいつも」
なんだ、わかってるんじゃないですか……ということはさっきのは薪さんなりの照れ隠しということか。
ふい、と顔を背けると、薪さんはカーディガンの前をかき合せるようにして「寒いな」と呟いた。俺には寒いという感じはなかったけれど、この人は暑がりの寒がりで、特に冬場は冷え性の気がある。それに最近は、昼間に比べると夜は冷え込むことも増えてきていた。さっき俺に触れた手が冷たかったことを思い出すと、こんな時間に起こした挙句今もこうしてつきあわせていることがちょっと申し訳なく思えてきた。
「毛布のついでに靴下をはいてくる」
「俺はいいんで、毛布には薪さんがくるまって下さい」
「くるまっていいんだったら僕はこのまま寝るけど」
……そんなに布団が恋しいのか……いや、別にいいんだけど。さすがの俺も布団にまでは妬けない。
「わかりました、いいですよ。深夜に起こしちゃってすみませんでした。もう薪さんはこのまま休んで下さい、俺なら大丈夫ですんで」
「そうか?」
寝ていい、と言われたことがよほど嬉しかったのだろう。笑顔でそう言うと、薪さんは片手で口元を隠しながら小さくひとつ欠伸をした。職場では無論見たことなんてなかったし、猫耳の時だって見せたことのない仕草だ。さっきの甘い雰囲気は消し飛んじゃったけれど、時間帯や自宅ということもありガードが緩んでいるのだろう。そんな貴重なものを見られたのだ、犬になって良かったかもしれない――って違った!犬じゃないから俺!間違ってもテンションが上がってしっぽ振ったりはしないから!
「……それじゃ、おやすみ」
「はい、おやすみなさい」
「あ、そうだ」
部屋を出かけていく途中で、薪さんはふと思い出したように立ち止まった。もしかしておやすみのキス?
「おまえ、お腹空いてるんだったら冷蔵庫の中のもの適当に食べていいから」
……違いましたか。
「……はい、お気遣いありがとうございます」
「じゃあな」
未練の欠片も見せずにこやかにそう言うと、今度こそ廊下へと姿を消す。パタンとしまったドアの方から振り向いてだだっ広い部屋の中を見渡し、次いで俺の身長で見ても高く感じられる天井を見上げると、一人残された俺は大きく溜息をついた。
夜中、こんな部屋に一人きりじゃ俺だって正直淋しい。
(私物だって見た感じ殆どないし、薪さん小柄なんだから、もっと間取りの狭い…天上だって俺の頭がすれすれくらいの部屋に引っ越しちゃえばいいのに)
そうすれば「ちょっと!狭いんだからもっとあっち行けよ!」「仕方ないじゃないですかここしか座れないんだから」「おまえは無駄にでかいんだよ鬱陶しい!」「そんなに狭いんだったら膝の上に乗ればいいじゃないですか。ほらここ、どうぞ」とか密着してイチャイチャし放題なのにな……ってまぁそれは極端かもしれないけど。あー、同棲妄想楽しい……。
――それはともかく。
ここの広さは一人だということを殊更に強調して自認させるだけのようで、この空間が仕事の前や後、くつろぐための場所、という風にはどうしても思えなかった。あれだけの重責を負い、気安く本音を漏らせる相手などごくわずかで、どれだけ傷ついても辛くても、そんな風に弱っている時でさえ一人耐えなければならない薪さんが帰ってくる場所。俺がさっき目を覚ました時のように暗くてしんと静まり返ったこの部屋に入ってくる薪さんの姿が、ドアのところに見える気がした。
(やっぱり)
俺では頼りなくて、大して役に立たないかもしれないけれど。
(やっぱり、お帰りなさいを言いたい)
あの人が帰ってくる場所にいたいと思う。それはいくら望んだところで無理だからせめて自分の部屋で待っていて、時折猫耳をつけてやって来てくれるあの人を抱きしめられたらそれでいいと今までは思っていたけれど……。
どちらかが帰らなきゃいけない束の間の逢瀬ではなく、本当の意味で時間や空間を共有したかった。身体も心も、傍に寄り添う時間がほんのわずかでもいいから欲しい。
そう思うのは贅沢すぎるんだろうか。薪さんは――あの人はそんな望みを抱くことはないんだろうか。
(鈴木さんは……)
あの人にはきっと、それができていたんだろうと思う。こんな風に思い悩むこともなく、自然に許されて。
キッチンに入りリビングを見渡す。ワイングラスを手に、心の底から気を許したものにしか見せない構えのない笑顔で微笑む薪さんと、それを見つめる鈴木さん。この場所に留まる二人の間に流れていた穏やかで優しい時間の記憶が見える気がして、俺はリビングに背を向けてそっと溜息をついた。
(とりあえず、腹に何か入れるか…)
夜中に目が覚めたらお腹が空いて眠れなくなっちゃったとか、そんなことも学生の頃はあったように思うけれど最近じゃ珍しい。しかもしっかり夕飯は食べたって言うのに、どんな風にここに飛んで来たのか記憶があるわけではないけれど、もしかするとこの現象には体力が必要なのかもしれないと思った。それに。
さっきは冗談めかして流したけれど、可愛らしい薪さんを見ていて自分の飢えを意識したなんて話もまるっきり冗談、というわけでもなく。余り笑えた話ではないけれど、実は結構本気だったりする。
お腹が鳴ったというのも、単にお腹が空いた、といういつもの感覚とはちょっと違った気がした。
さりとて、部屋に戻った薪さんを襲いに行くほど俺は獣ではない。
お腹に何か入れればきっとこの妙な感覚も治まるだろうと、ひとまずキッチンの戸棚を覗かせてもらうことにした。冷蔵庫の中のものを勧められたけれど、やっぱり季節的なものか冷えたものよりあたたかいものが欲しい。何でもいいけれど、レトルト系とか即席麺の類とか、そういうのがあるかもしれないと思ったのだ。
でも、ここは外食嫌いの小食で有名な薪さんの自宅キッチン。いくら捜索してもがらーんとした収納空間が広がるだけで、食器や調理器具など以外はお目にかかれそうもなかった。
(じゃあやっぱ冷蔵庫か…残り物とか、あるのかな?)
薪さん自らそこを示して見せたのだから、そういうことなんだろう。「手料理」か。その響きにちょっとだけ胸がワクワクする。冷え切っていてもレンチンすればいいのだし、お言葉に甘えて頂いちゃおうか。
一人暮らしにしてはやけに大きな立派な冷蔵庫に目を遣れば、普段の薪さんの食生活が覗けちゃうかもしれない、という期待が遠慮する気持ちをあっという間に追い抜いて行った。上司の冷蔵庫ではあるけれど、俺たちは恋人なんだし。
薪さんだってくつろげばいいと言ってくれたわけだし。
す、と冷蔵庫の扉に手をかける俺の口許は自然と緩み笑みの形になっていた。

(つづく)

薪さんの秘密の扉に手をかけた青木の運命やいかに!?←そんな話だっけ;;;;
多分皆さん今頃はアフターケアで盛り上がる準備をされているのでしょうけれど、すみません、マイペースで(笑)
もうちょっと続きます。
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Comments 6

eriemama  

Re: 扉

> 薪さんの冷蔵庫って、何が入っているのかな?

薪さん家の冷蔵庫、気になりますよね(笑)お家にお邪魔できるものなら、是非とものぞいてみたいです。小分けにしたご飯とか冷凍庫に見つけたら感動しそう…←何の感動だか;;;;
冷凍稲庭うどんもあるかな…(*´꒳`*)
いずれにせよ、その人、その家らしさが出ますよねぇ。

> 家の冷蔵庫は、ぎっしりか空っぽか、料理人の気分次第です。
> 以前は、釣りのエサのミミズとかゴカイとかがいた!

お!釣りされるんですか?エサは冷蔵庫保管なんですね?(^^;)鮮度大事ですもんね…でも私だったら…きっと開けられない(笑)いやもう、野菜についてる小さい虫とかでもヒヤァ!?って大騒ぎするやつなんで;;;;

> なんにしても、そそられる冷蔵庫であってほしいなあ。

そそられる冷蔵庫……え、なんか今ハードル上がりました?(笑)次でがっかりさせちゃったらすみません(^^;)

> 冷凍ポテトでぎっしりだったりしてね(笑)

それは…もしかして箱ごとバシャっとできるマイクロマジックとかでしょうか(爆)
それ面白い(笑)やだ、きこさん天才ですか?(笑)薪さんったら…ポテ担青木がだいぶお気に召したんですね?(^◇^;)

2016/11/06 (Sun) 21:55 | EDIT | REPLY |   

きこ  

薪さんの冷蔵庫って、何が入っているのかな?
食べることって、感じることじゃないですか(何を!?)

家の冷蔵庫は、ぎっしりか空っぽか、料理人の気分次第です。
以前は、釣りのエサのミミズとかゴカイとかがいた!

なんにしても、そそられる冷蔵庫であってほしいなあ。

冷凍ポテトでぎっしりだったりしてね(笑)

2016/11/06 (Sun) 09:47 | EDIT | REPLY |   

eriemama  

Re: 待ってた薪にゃん!じゃない青木わん。

> 青木おまえ~!!薪さんが寒いっつったら抱き締めてあげなさいよ!

相変わらずその辺鈍い青木と遠回し薪しゃんなのでした…(^o^;)

> さては冷蔵庫に猫耳としっぽ入ってたりします?


いやそれ…;;;;;
ちょっとチャッピー思い出したのは私だけでしょうか( ̄▽ ̄;)←微妙に違うけど(笑)

> ウチも冷凍庫がすごいです…ごはん1食ずつタッパに入ったのいっぱいと、肉やらお弁当用の冷食やら、ぎっしり。

ひとり暮らしだとそうなりますよね(笑)私もそんなんでしたよ?ご飯はカレー・丼用、お弁当用、普通の、で3種よういしたりして(^^;

> 実家の冷蔵庫が、同じドレッシングが3本出てくるような汚部屋なので、ああはならないようにはしてますが…

それ義実家がそうです(-_-;)二人なのに卵が3パックとか、これからの時期は開いたポン酢の瓶が複数とかね…あれは何なんでしょうね。生活に余裕ありすぎるのかな(^_^;)

2016/11/05 (Sat) 16:31 | EDIT | REPLY |   

なみたろう  

待ってた薪にゃん!じゃない青木わん。

青木おまえ~!!薪さんが寒いっつったら抱き締めてあげなさいよ!
萌え袖であくび、可愛いからいっか。
…良くなーーい!( ・`д・´)薪さんあまのじゃくで分かりにくいんだから、もっと考えて!?

さては冷蔵庫に猫耳としっぽ入ってたりします?

ウチも冷凍庫がすごいです…ごはん1食ずつタッパに入ったのいっぱいと、肉やらお弁当用の冷食やら、ぎっしり。実家の冷蔵庫が、同じドレッシングが3本出てくるような汚部屋なので、ああはならないようにはしてますが…

一緒に暮らしたい願い、いいですねぇ。
薪さんをひとりぼっちにしないでよ青木わん。

2016/11/04 (Fri) 22:52 | EDIT | REPLY |   

eriemama  

Re: とうとう……

> って冷蔵庫ってあまり覗かれたくないですよね(^^;)

はい(笑)押し入れと首位を争うくらい見られたくないところです、うちの場合(^^;)
まぁ寒くなったら思い切って電源抜いて掃除したりもするのでこれからは多少ましですが、夏の間は冷やしたいものも多いしごちゃごちゃ感凄かったです。あと、最近ではメロディ前…;;;;←買い込むからひどい

> どうやったら綺麗に片付くんでしょう?

綺麗だったのは買った当初くらいですね(^^;)

> 作り置きの手料理があるといいね、青木ワン……。

作り置き、見つかりますかねー?(笑)しづさんのところのようにすごく料理うまい設定だといいねー?青木ワン…(^▽^;)

そして色々醸し出す展開に持っていきたいところです(笑)

2016/11/04 (Fri) 13:50 | EDIT | REPLY |   

ねこじゃらしにゃんたろー  

とうとう……

薪さんの秘密の扉が開かれる……!!

って冷蔵庫ってあまり覗かれたくないですよね(^^;)

私独り者の割には料理が好きなので、昔「きっと冷蔵庫の中もぴちーっとしてるんでしょうね」と言われ、「してません!!」って即答しました……。
ぎゅうぎゅうでみちみちなので……
どうやったら綺麗に片付くんでしょう?

いや、薪さんはきっと綺麗なんだろうなあ……。
冷蔵庫も大きいし………。うらやましい……。

作り置きの手料理があるといいね、青木ワン……。

2016/11/04 (Fri) 12:28 | EDIT | REPLY |   

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