GARDEN CITY LIFE~annex~

お越しいただきありがとうございます。当ブログは清水玲子先生の『秘密』のレビュー(時にネタバレ)と二次創作(こちらは一部BL要素含)のざっくり二部構成になっております。記事は単純に日付順に表示されておりますので、お読み頂く際はサイドバーや記事一覧などでカテゴリーをご確認またはセレクト頂けますと安心、安全です<(_ _*)>

薪にゃんと一緒(お祝いの日に・後編) 

このまま逃げちゃおうか、とも思ったのですが、さすがにメロディまたぐとより一層アップしにくくなってしまいそうなのでここらでこっそりアップさせていただきます。間を開けすぎると内容がスカスカなだけにものっすごく続けにくい、ということを今回身を以て学習しました。これからはなるべく書き切ってからアップしようと思います…;;;;



薪にゃんと一緒(お祝いの日に・後編)


昼ご飯が終わると薪さんはさっさと食器を下げ、俺が重い腰を上げキッチンに向かうまで「早く!」と急かしながら布巾を片手にスタンバイしていた。余程食後のゲームが楽しみとみえる。チェスは毎回薪さんが半時間も経たないうちに圧勝していて、俺なんかが相手じゃ手ごたえがなさ過ぎてつまらないのでは、とさえ思うくらいなのに。
俺が洗った食器をせっせとしまい終えると、薪さんはすぐに窓際のテーブルにお待ちかねのボードゲームを準備しはじめた。
それは雨の日の暇つぶしにと俺が買って来たオセロとチェスが両面で楽しめるタイプのもので、薪さんは最近チェスにハマっていた。もっとも、真剣に勝負してこられたら俺には一切勝ち目などあるはずもなく、薪さんの連勝記録は毎日更新され続けている。
「さっきも言いましたけど、ハンデ下さいよね?もういっそ薪さんはクイーンとキングだけでもいいんじゃないですか?」
「バカ言うな、いくら僕でもそんなんで勝てるわけないだろ!?」
でも、見た限り並んだ駒はいつもどおり。ハンデなんてあるようには見えない。…まぁいいけど。
なぜかものすごく視線を感じながら薪さんの対面に腰を下ろすと、さぁ始めましょうか、と俺はボード上の駒を覗き込んだ。今日はどこから攻めようか。
「あ お き っ」
呼ばれて顔を上げる。あ、先攻はそちらでしたか?
けれど薪さん妙に嬉しそうにニコニコと笑いながら立ち上がると、笑顔のまま口を開いた。
「ハンデ、やるって約束しただろ?」
あ、くれるんですか?
「今日はどんなのがもらえるんでしょう?」
「これだ」
ふふん、と鼻で笑って、薪さんは俺の方に回り込む。わけがわからず首を傾げていると、モフモフのセーターがするりとテーブルと俺との間に滑り込んできた。
……え?
元からそこがそのために用意されたスペースだったかのような当然さで胡坐を組んだ俺の足の上に落ち着いた薪さんが、ふふっと振り向いて笑う。このたまらん距離感っ、破壊的な可愛さっ…い、いや。でも。
「…………あの」
「今日はこっちから指す」
「……ちょっと待って下さい、それじゃ俺、足が痺れちゃいますって」
いくら小柄でも本物の猫ではないのだ。長い間足の上に居座られたんじゃ血が巡らなくなる。
「男なら足の痺れくらい我慢しろ」
「それじゃハンデじゃなく修行ですよね!?駒だってものすごく見辛いです」
顔の前にはフワフワした薪さんの髪がある。これじゃいい匂いに思わずうっとりしちゃってもうゲームなんかどうでもよくーーじゃなくて!いや、匂いも込みで正直俺の方もやり辛さが増しているんですけど。
……せめて隣りに座りましょう?もうこれじゃペナルティになってます!
「こんなに近くに来られちゃいろんな意味で全く集中できませんから。ね?ほら、こっち座りましょう?」
「そう?僕は気にならないけどな……じゃあ、僕からな?」
じゃあって――さらっと先攻とってるし!
どうしてもそこから動く気にはなれないらしい薪さんの一手を横から確認して、自分の駒をとりあえず動かす。口元に手をやり真剣に次の手を考えている横顔を斜め上から覗き見ながら、俺はハァ、と諦めの溜息をついた。毎度のことだけども、なんなんだか…。
(さっきはあんなに挙動不審になっていたのに)
今は自分から膝に乗って身体を寄せてくる。変な人だ。腕を掴んだくらいでドギマギするような初心な人はこんなに密着できたりはしないと思うんだけど、この人のドキドキポイントには前後の流れや必然も影響している、ということなんだろうか。
薪さんがゲームに集中しているのをいいことに、俺はさりげなく細い腰に片腕を回して自分の方へと引き寄せた。やわらかい髪に隠れたうなじに顔を寄せると、ちょっと懐かしい甘い匂いがする。
「青木」
普段こんなに無防備に近づかせてくれることはないから、これはこれでいいかもしれない。
ゲームにはきっと今日も負けてしまうんだろうから、この際できるだけねばって楽しい密着タイムを稼ぐってことで開き直れば…。
「青木!」
「はっ、はいっ」
イラッとした声音で呼ばれて我に返ると、おまえの番!と眉をひそめた薪さんにテーブルを平手で叩かれた。ホントに気が短いんだから。
「なにボーっとしてるんだ!真剣にやらないと許さないぞ!」
ちょっと仕事モードですね?…ごめんなさい、真剣にイチャイチャしようとしてました。

それから半時ばかり。俺たちは雑談を交えつつチェスを楽しみ、最終的に勝ちをおさめたのはやはり薪さんだった。自分が勝ってしまうと途端に退屈そうにごろんと床に寝そべりダラダラし始める恋人を、俺は散らばった駒を片付けつつ足元の方から眺める。セーターの丈が絶妙過ぎて普段は見えないけれど、こうして少し下から見る景色は見えるか見えないかの際どいところで――気取られないように視線を向けるのはなかなかスリリングだ。
もう少し首を傾けたら見えるかな?と身体を前にずらすと、それを読んだようなタイミングで薪さんが肘をついて上体を起こした。一瞬気付かれたかと思ったけれどそうではないらしく、罵声が飛んでこないかったことに俺はひとまず安堵した。それでも裾の位置が完全にずれて、もう綺麗なカーブは見えそうにない。…もう少しだったのに。
どうやらカーテンの向こうが気になるらしく、薪さんは控えめにカーテンを開き窓の外を覗いている。
「…あ、またちょっと降ってる」
「ほんとですか?」
どれどれ、と近づいて薪さんの上に腕を伸すと、カーテンをさらに開けてより広い隙間を作った。確かに静かに細かい雪が舞っている。朝覗いた時には日が射していたけれど、今の空は薄墨で描いたような雪雲に覆われていて太陽の姿はなかった。
「……僕が生まれた日もこんなだったのかな」
「雪ですか?確かに寒い時期ですから…そうだったかもしれませんね」
もう一週間もすれば立春だけれど、例年まだまだ寒い日は続く。俺がカーテンを閉めると、身体の下から薪さんがクスッと笑うのが聞こえた。
「?」
「おまえはバカみたいに晴れた日に生まれてそうだよな。冬なのにたまにすごくあったかい日があるだろ、春みたいに」
バカは余計です。
「生まれた日はどうだったか知らないですけど、退院の日は小春日和のいいお天気だったって言ってましたよ、母が」
ふぅーん?と微笑みながら応じると、薪さんはよいしょと身体を起こし窓辺に陣取るようにぺたんと座り込んだ。窓際は寒いのに、雪が降ってくる様子をそこから観察する気のようだ。
「…………」
ふたり一緒に黙り込むと、部屋の中は途端に雪が舞う外の静寂とつながったようにしんと静まり返る。
もしかしたら。
薪さんはこんな寒い1月の終わりに、天から地上に舞い降りてきたのかもしれない――雪と一緒に。
その後ろ姿が郷里に思いを馳せるようにぼんやりと月ばかりを眺め続けていたかぐや姫のようだったからだろうか。そんなバカみたいなことを、俺は結構真剣に思った。

薪さんが飽きもせず窓辺を動こうとしないので、3時を前に俺は一人で再びキッチンに立った。冷蔵庫からケーキを取り出すけれど、その扉の開閉音にも反応しないなんて珍しいことだ。いつもなら「おやつ!?」とすっ飛んでくるのに。
まぁ確かに降雪も積雪もそうある事ではないけれど、こんなに身じろぎもせず見入るなんて。
(いや、もしかしたらあの姿勢で寝てるのかも…?)
そう思ってしまうくらい、後ろ姿だけを見ていると変化がない。
声をかけてみようかと思ったけれど、思い留まってケトルにお湯を沸かすことにした。今日はコーヒーはやめて、さっぱりと紅茶でも淹れて食べることにしよう。
プレートは薪さんが気に入っているブルーグレーのものを選ぶ。カップもお揃いのものを用意して、ひとり分ずつトレーの上にセットした。
できあがったケーキは真っ白で、今日の窓の外を思わせる。
それだけでは彩りが寂しいから、何か添えるものを探した。冷蔵庫にはヨーグルト用のラズベリーソースがあるけれど、これを勝手に使うと薪さんがうるさいしな……。
ちら、と窓辺に座り込んでいる亜麻色の可愛いらしい後頭部に目を細めたけれど、いくらガン見しても振り向いて睨まれることはなさそうだった。ありがたいことだけれど、少しだけそれはそれで寂しい。作っている時は興味津々だったのに、今やその興味は完全に雪に持っていかれてしまったようだった。
そうだ、確か頂き物のオランジェットがいくつか残っていたはず――あれを使おう。
形を崩さないように慎重に切り分けたケーキをプレートにのせ、半分にカットしたオランジェットを添える。薪さん、と呼ぼうとして顔を上げると、カウンターの向こうにはいつの間にか薪さんが立ってこちらを覗き込んでいた。その顔が上を向き目が合うや、視線は逸らされてしまったけれど。
……なんだ、もう全く気にならなくなっちゃったのかと思えば。
「……できた?」
「――はい」
「きれいだな」
そう言うと、薪さんはケーキを見ながらふわりと笑った。…あぁ、今だけでいいからケーキになりたい…。
「運んでもいい?」
「お願いします」
トレーは薪さんにお願いして、ティーポットに沸いたばかりのお湯を注ぐ。しばらく抽出のための時間を置いて鼻歌を口ずさみながらテーブルへと運ぶと、先に座って待っていた薪さんは露骨に迷惑そうな顔をした。
「…あおき。歌わない約束だろ、ソレ」
ソレ、とはもちろん俺が今口ずさんでいた鼻歌、ハッピーバースデートゥーユー、という定番のお祝いソングのことだ。そんな約束しましたっけ?
「いいじゃないですか。これくらいしないといつものおやつと変わらないですよ?」
「本格的に歌ったらフォークで刺すから。考えただけで毛が逆立つ…」
「お誕生日に捕まってもいいんですか?ってか俺、そんな下手じゃないと思うんですけど、歌」
「そういう意味じゃない。誰に歌われようがイヤなものはイヤなんだ」
運んで来たティーポットから紅茶をカップに注ぐ。今日はミルクも砂糖もなしだったけれど、薪さんはおとなしくそれを受け取ってくれた。もうその目はお預け状態のケーキに釘付けで、嬉しそうに口許が綻んでいる。
「……じゃあ、いただきましょうか。お誕生日おめでとうございます、薪さん」
せめてお祝いのひと言くらい、と俺が言うと、笑顔のままこちらを見返した薪さんは「いただきます!」と元気よく応じてくれた。いや、薪さん、俺のお祝いメッセージには何もなしですか……?
「おいし」
パク、とひとくち口に運んだ薪さんが、幸せそうに目を輝かせる。いつもと変わらぬその様子に、俺はほっとして微笑みを返した。
「僕が作ったビス生地はどう?」
「ええ、おいしいですよ。いい具合に固まりましたね」
バターがちょっと少なかったかと心配したけれど、しっとりまとまっていておいしい。俺が短く感想を述べると、薪さんは満足げに微笑んで忙しくケーキを口に運んだ。この食べっぷりだとあっという間にお皿が空になってしまいそうだ。
「オランジェットは食べないんですか?」
いつまでも皿に残っている好物のはずのそれを指して尋ねると、これは最後!とフォークで自分の方へ大事そうに匿う。大丈夫ですよ、とったりしませんから。
「俺の分も食べます?」
「えっ!?いいの!?」
「ええ、今日はお誕生日ですから」
フォークで掬ったそれを向かいの皿へ移動してやる。あおき!と弾んだ声に呼ばれて顔を上げると、キラキラと輝く琥珀色の双眸がこちらを熱っぽい目で見つめていた。
「?何ですか?」
「大好き!!」
……はいはい、わかってますよ?オランジェットのことですね?

ケーキを食べ終えると、薪さんは両手を合わせてごちそうさまでしたをし、珍しく俺の分の食器も重ねてキッチンへ下げてくれた。その後ろ姿を確認し、ソファの後ろに回り畳んだブランケットの下に隠しておいたプレゼントの包みをそうっと取り出してくる。何も知らずに戻ってきた薪さんは、両手を後ろに回し立っている俺を見つけると、「ん?」と首を傾げた。
「なに?」
「いろいろ考えたんですけど、なかなか思い浮かぶものがなくて」
包みを前に出してどうぞ、と差し出すと、薪さんは目を瞠ってプレゼントと俺とを交互に見た。
「え…っ?プレゼントはケーキじゃなかったのか?」
「ええ、さすがにそれだけじゃと思って」
「いらないって言ったのに」
「まぁそう言わず。開けてみて下さい」
はい、とさらに進み出てプレゼントの包みを半ば押し付けると、ようやくそれは薪さんの手の中に納まった。しばらく包みを軽く振ったりひっくり返したりしてから、若干戸惑い気味の微笑みを浮かべてではあったけれど薪さんはようやく俺の方を見てくれた。
「……ありがとう。今開けていい?」
どうぞ?と俺が応じると、薪さんはその場に座り込みビリビリと豪快に包み紙を破って剥がした。…いらないとか言って、やっぱり中身気になったんですね?
中から現れたものを身体の前で広げると、うわぁ!と弾んだ声を上げる。さっきまでの戸惑いの表情から一変した嬉しそうな顔に、俺はホッと胸を撫で下ろした。この顔を見れば、気に入ってくれたのは一目瞭然だ。
「エプロンだ!色違い!?」
「はい。お手伝いもそれでするともっと楽しいでしょう?」
こくん、と満面の笑みを浮かべて薪さんが頷く。良かった。反応が薄かったらどうしようかと思った。
「青木!つけてみて?」
ハイ!とエプロンを俺に渡し、薪さんはくるりと回転してこちらに背を向ける。
「いいですけど、じゃあ服は脱いでもらわないと」
「……そーゆーのはいいから」
はいっ…す、すみません。

ブラックデニムの俺のエプロンに対し薪さんのものにはインディゴのものを選び、ポケットには小さいけれどイニシャルの刺繍を入れてもらってあった。それに気づくと、薪さんは一層喜んでくれた。イニシャルとはいえ、名前の入ったものを持つのは初めてだという。
腰のところで紐をリボンの形に結んでやると、クルッと回転した薪さんは両手を身体の横で開いて「どう?」と恥ずかしそうに笑った。
「よく似合ってますよ。お手伝い、頑張って下さいね」
うん!と応じた薪さんは次の瞬間、あれ?と首を傾げた。
「あれっ?なんだろ、ポケットに何か……」
困惑気味に呟く様子を見て、俺は少し緊張し始めていた。そう、実はこのポケットの中に忍ばせておいたものこそ、本当のサプライズなのだ。俺が黙って見守っていると、薪さんは何のラッピングもせず無造作に入れてあった小さな箱を取り出し、え?と短く声を上げた。
「…なに?青木おまえ、ほんとはトランプがしたかったのか?それとも時事ネタのつもり?」
いやいや、後半は意味わかんないですよ?
「チェスが嫌ならそう言えばいいのに。そうか、さすがにおまえのプライドもこれだけ負けが続くと傷付くよな」
悪かった、と言うと、何やら独り合点した薪さんはエプロンをつけたままテーブルの方に向かって行った。
「何する?ババ抜きはふたりだとあんまりおもしろくないから、ええっと…とりあえず神経衰弱とか?」
カサ、と箱を開け、中身を綺麗な指が取り出そうとするのを、それから愛しい恋人の顔を、俺はドキドキしながら見つめた。あれに気付いたら、この人はどんな顔をするだろう。毛を逆立てて顔をひきつらせるだろうか。それとも照れ隠しに怒り出すだろうか。それとも……。
カードは裏返しに出てきたけれど、箱を開ける間に勘のいい薪さんはすぐにそれが本当の新品ではないことに気付き始めたようだった。そう、何度も出したり仕舞ったりをしたせいで、よく見れば箱にもそれなりのダメージができているのだ。もちろん大切には扱って来たけれど、それはカードにも。
箱からカードの束を引っ張り出した薪さんはそこで動きを止め、問うような目を俺の方に向ける。笑顔のまま俺が黙っていると、諦めたのか小さく溜息をついて一番上のカードを手に取り、ゆっくりと裏返した。
1枚目をじっと確認すると、薪さんは徐に残り全部を表側を上にざっとテーブルの上に広げた。
表は数字と記号のカード。その余白を使って、少しずつ少しずつ。
愛していますの気持ちを込めて、一枚ずつにこの人の好きなところをしたためていった。最後の1枚を書いたのは昨日の夜だ。
長い睫毛。細くて長い綺麗な指。俺より少しだけ低い体温。俺のために怒ってくれるところ。俺と一緒に傷ついてくれるところ。気が強いところ。でも涙もろいところ。時々見せてくれる、心が痛むくらい優しい目…。
下を向いてしまうと柔らかい髪がハラハラと流れて顔を隠してしまい、表情がよく見えなくなる。俯いた薪さんはしばらくの間身じろぎすることを忘れたように動かなかった。。
……やっぱり、こういうのはまずかったかな。
サプライズが苦手だっていうのはよく知っている。だってそれは、深く想われ大事にされている人が受けるものだから。
加えて俺の想い人は、自分の美点を褒められたり讃えられたり、良く言われることが苦手だ。他人のそれは細やかに感じ取り尊重できるのに、自分にも同じようにそれが存在するとは考えていない。だからこそ、俺の中の伝えたいという気持ちは、嫌がられるかもしれない、に容易く勝ったのだ。
「すみません、お嫌いでしたよね?こういうの」
しかし俺の気持ちはどうあれ、わかっていて薪さんを困らせてしまったのは悪かった。加えて沈黙が広げる緊張感に耐えきれなくなったのもあって、アハハ、と笑いながらカードを仕舞おうと手を伸ばしたけれど、結局それは未遂に終わることになった。なぜなら途中で、その手は薪さんの手に押し留めるように捕まってしまったから。
「薪さん…?」
隣りに膝をついて座った姿勢で、俺はそうっと首を曲げてその顔を覗き込む。伏せられていた顔が、ふっと上を向いた。…ほんの少し潤んだ目は気のせいだろうか。
「――あの」
「青木」
はい、と俺が応じるのを待って、薪さんは再びメッセージが書き込まれたカードに視線を落とし静かに口を開いた。俺の手を握る手に、僅かに力がこもる。
「……僕は小さい頃に両親を亡くしていて、さっきも話したけど自分が生まれた時のことなんかは知らないんだ、本当に」
でも、と薪さんは続けた。
「でも、僕の記憶にある限り、僕は生まれてこのかた一人きりで誕生日を過ごしたことがない。ーーそれって」
きっとすごく幸せなことなんだって思うよ。
言い終えた薪さんの唇が、笑みを象って緩む。
「たくさんの人にではないけれど、愛されて…今もおまえに愛されていることを、幸せだって思うよ」
「薪さん……」
それは俺も同じだ。この人に愛されて、共に居られることを幸せに思う。大切な人が生まれた日を祝福できることを、その人に想いを伝えられることを、幸せだと思った。
「ありがとう、あおき」
細い腕が首の後ろに伸びて、柔らかい髪が頰に触れる。委ねられる重みを大切に受け止めるように抱きしめ返すと、その言葉のぬくもりはじんわりと身体の奥に染み込んでーーやがてそれは、閉じた両の目に熱になって滲んだ。


(おわり)


青木が最後に渡したトランプラブレター、ご存知の方も多いかもしれませんが別名「52reasons why I love you」とも言うようで西野カナさんが歌にされたりもしています。
いずれにせよ、自分が贈られたら全身が痒くなるだろうな、とは思うんですが(笑)、薪にゃんには耐えて頂きました。
薪誕から引っ張ってしまいましたが、お付き合いいただいた方、ありがとうございましたm(__)m



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Comment

Name - eriemama  

Title - Re: かわゆい…….

> チェス/将棋か囲碁を薪さんに凄いして欲しかってので、冒頭からめちゃくちゃ萌えてます(°▽°)

ありがとうございますw
でも、ろくにゲームっぽい描写がないという(^^;;チェスはルール知ってるしよく弟と対戦してたんですが、長くなるのが面倒くさくて;;;;将棋なんかも似合いそうですね。昔澤村さんに鍛えられてそうです(^^;)

> このトランプ初めて知りまして、確かに自分がされたら嬉しくも痒い(^^;)けど、薪さんはこれくらい必要かも。青木もちゃんと全部、気を込めて書きそう……(ちょっと怖いですけどw)

そう、気を込められるとちょっと怖い…数が数ですし(笑)でも大好きな人との蜜月に捧げられたら普通に嬉しかったりするのかもですね。すごい見てくれてるんだな、とか。日本人はあんまり褒め上手じゃないと思うので、こういうのむしろいいのかもしれません。

> メロディ早売り日で、ソワソワしてますけど、可愛さで和みました〜
> eriemamaさんの感想楽しみにしてますねー

なんか今回は年度末の忙しさの嵐の中にいらっしゃる方が多そうでひっそりしちゃうのかな、というのが若干寂しいんですが、やっぱり明日は楽しみです。さらしさんの更新も楽しみにしてますよ〜wまた伺いますね!
2017.02.27 Mon 22:17
Edit | Reply |  

Name - eriemama  

Title - Re: なんとお可愛らしい( ;∀;)

> んもう、セリフやしぐさがイチイチ可愛いっ( ;∀;)

ありがとうございます…かわゆさはクッキング薪にゃんの売りです(笑)だいぶ子供っぽいですが(^^;)

> 関係ないですが、ウチの色鉛筆のフェリシモ、「猫部」て企画を前からやってますが、「肉球の香りハンドクリーム」とか「猫の頭の香ばしさののクリーム」とかうってるんですけどね(゜ロ゜)
> お日さまの匂いとか香ばしいとか言われる猫の匂い、薪にゃんからもしそうです。

猫部、知ってますよ〜w肉球の香りハンドクリーム持ってます(笑)あと山野りんりんさんのコラボグッズもイラストがかわゆーてツボです!(*≧∀≦*)

> 幸せな香りなんだろうなぁ~。

薪にゃんきっと薪さんとは別のいい匂いするんじゃないですかね…仰るような香ばしい感じのwあぁモフりたい…( ;∀;)

> トランプのプレゼント、すごいですね!
> 実際に自分がされたら…てのもわかりますが(笑)

わかってくださいます?(笑)友達からの軽いの、とかだと大丈夫だと思うんですが、お話で使ったような本気の(?)はきっとダメです(笑)
自分で誰かに作る方は楽しそうだからやってみたいなぁと思ったんですけどね〜。スクラップブッキング風のとかオシャレで…でも52って結構な数ですよね(^^;;
2017.02.27 Mon 22:06
Edit | Reply |  

Name - さらし  

Title - かわゆい…….

チェス/将棋か囲碁を薪さんに凄いして欲しかってので、冒頭からめちゃくちゃ萌えてます(°▽°)
薪さんなら普通にハンデつけても連戦連勝ですよね〜 。普通じゃないこちらのハンデじゃ青木はそりゃ気が気じゃないですよねw ふふふ。

テンション上がってコメントタイトルといきなり違うこと書いちゃいましたけど、薪にゃん賢いのに本当に天真爛漫で少し意地っ張りで可愛いです(≧∀≦)
このトランプ初めて知りまして、確かに自分がされたら嬉しくも痒い(^^;)けど、薪さんはこれくらい必要かも。青木もちゃんと全部、気を込めて書きそう……(ちょっと怖いですけどw)

メロディ早売り日で、ソワソワしてますけど、可愛さで和みました〜
eriemamaさんの感想楽しみにしてますねー
2017.02.27 Mon 09:20
Edit | Reply |  

Name - なみたろう  

Title - なんとお可愛らしい( ;∀;)

んもう、セリフやしぐさがイチイチ可愛いっ( ;∀;)
関係ないですが、ウチの色鉛筆のフェリシモ、「猫部」て企画を前からやってますが、「肉球の香りハンドクリーム」とか「猫の頭の香ばしさののクリーム」とかうってるんですけどね(゜ロ゜)
お日さまの匂いとか香ばしいとか言われる猫の匂い、薪にゃんからもしそうです。
幸せな香りなんだろうなぁ~。

トランプのプレゼント、すごいですね!
実際に自分がされたら…てのもわかりますが(笑)
でも薪さんの孤独感はこのくらいしないと埋まらないのかな。なかなか「愛してる」を信じてくれそうにないから。
薪にゃん、伝わったようですね…( ;∀;)
良かった…幸せになるんだよ?←ばあや号泣
2017.02.27 Mon 00:13
Edit | Reply |  

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