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薪にゃんと一緒(年越しパロディー編)

eriemama

スー、スー、スー、という規則正しいかすかな音が耳に届いて、それに気づくまでに静かな間があったことに気づいた。
しまった、つい没頭してしまった。
正月休みが明けたらすぐに新学期だからと思い、休み明けに学校に持たせる雑巾を縫っていたのだけど…うっかり単純作業に没頭してしまったようだ。
ええっと、何の話してたんだっけ?確か来年の目標を短冊に書けとか何とか。
こたつの向こう側にはどこまで真剣なのかは謎だがしっかり2本の短冊と使い込んだ感のある硯と筆が用意されていた。そこまでするのならいっそ半紙を用意して日付を跨いでから書き初めをすればいいのに、と言う俺に薪さんがすっかり不貞腐れてしまって、その様子が可愛いなぁ、なんて上目遣いに窺っていたあたりまでは覚えている。
もういい、とこっちをひと睨みした後ゴロンと仰向けに寝転がった薪さんだったけれど、年末の仕事関係の付き合いという猫かぶり業務が続き疲れがたまっていたのだろう、そのまま寝落ちしてしまったようだ。
猫耳で寝息を立てている癒し効果抜群の愛しい人を起こしたくはなかったけれど、下手をするとこのまま明日の朝、なんてことになりかねないし何より風邪なんかをひかれちゃ大変だーーいや、生き霊は風邪ひかないんだっけ?
最後のひと縫いを終えると、糸を始末して裁縫箱をしまった。これで残りの冬休みは少しゆっくりできるはずだ。
それから。
押入れを閉めてコタツに戻る前、ふと思いついてベッドサイドに置いてあった目覚まし時計を手に取った。
「薪さん」
隣りの席に座って細い肩に手をかける。一度呼んだくらいでは起きないので、薪さん、薪さーん、と続けて呼びかけたところで、ようやく長い睫毛がぴくっと揺れた。片目だけがうっすら開いてこっちを見る。
ふふっ、可愛いなぁ寝起き。
「ん……?す」
「ずきさんじゃありません、青木ですよ」
「…まだ呼んでない」
のに、と言うと、薪さんは両手を頭の上に伸ばして「ンーーッ」と伸びをした。まるで数時間くらいは眠った後のようだ。
「あれ?目は覚めたつもりなんだけどなんかおまえがぼんやりして見える…?」
「……ぼんやりした顔ですみません。そうだ短冊は俺、脱モブ顔にします!」
「あんまり作者を困らせるな。おまえに時間と労力を回されたせいで僕の髪の艶や目の輝きが損なわれたらどうするんだ、全国200万のご婦人方をがっかりさせることになるんだぞ?」
おまえのせいで、と薪さんはこれ以上面倒臭いことはないとでも言わんばかりのどうでもいい様子で、あくびを交えながら付け加えた。どうでもいい風装ってますけど結構パーツが具体的なのは割と本気ですよね?
「……まぁそれはともかく。あけましておめでとうございます、年、明けちゃいましたよ?」
ちょっと傷ついた腹いせではないけれど、あーあ、残念だなぁ?とオーバーめのリアクション付きでまだ眠たげに起き上がってきた薪さんの顔を覗き込んだ。毎年どれだけ忙しかろうと疲れていようと、はたまたちょっとした喧嘩の後でさえ、律儀に大晦日の夜はこうして現れては一緒に年を越してくれる。それはささやかな儀式のように、この人がその時を共に過ごすことを大事にしてくれていることを俺は知っている。
だからこそ。
こんな風に至近距離で目を合わせる事は苦手なくせに、ばっちり目を合わせたまま大きな目をさらに見開き、薪さんは一瞬フリーズした。それから。
「マジかっ!?」
コタツにつっこまれていた手が勢いよく飛び出してきて胸ぐらをつかまれそうなったけれど、間一髪で躱した。危なかった…っ。
「はい」
若干ひきつりながらも何とか笑顔を作ってこくんと頷くと、薪さんは行き場をなくした両手で頭を抱え込み、そのままガンッ、と額をコタツの天板の淵に打ち付けた。
ちょ…っ、薪さんっ!?
「ああああッ!僕とした事が!!一緒に年越ししたかったのに!!」
よほどショックだったのか、薪さんは悲鳴のような声を上げながら再びゴンッ、とコタツに頭突きをかました。薪さんの気持ちは知っていたけれど、改めて本人の口から言葉で聞くと嬉しーーとか言ってる場合じゃなくて!痛い!痛いでしょそれ!?
「ちょっと薪さんっ!!わかりましたから!!ほらっ、気を取り直して一緒に!年越しうどんでも食べましょ?ねっ?」
がっちりと頭をホールドしている細い指に手をかけてそうっと離してやると、薪さんはゆるゆると顔を上げ、痛みからかショックからかやや涙目になった目をパチパチしながら俺の方を見た。
「うどん…て、何で?蕎麦じゃないのか?」
「ええ、だって薪さん、うどんお好きでしょう?」
そう、だから今年は、一度手に取った蕎麦は棚に戻してうどんの方を買ってきたのだ。世間的にも年越しといえば蕎麦、の認識は薄れつつあるようだし。
「青木……」
あれ?そんな目で見つめちゃって、もしかして俺の心遣いに感激されました?それとも一緒に大好きなうどんが食べられるのが泣くほど嬉しいとか?
「どうしておまえはいつもいつもそうやってうどんから離れられないんだ?なんでおまえだけどうせ消化が良けりゃ何でもいいんでしょって考えられない?いい加減うどんから離れろ、僕は別にうどんがそんなにってわけじゃないって何度言ったらちゃんと聞いてくれるんだこのバカ!」
俺を見る涙目はどうやらそっちの嘆きからだったらしい。
ていうか。うどんでちょっと脱線しちゃいましたけど。
「そんなにショックでした?実はほら、これ!ドッキリでしたー!」
ジャジャーン!とややキョトンとする薪さんの前に、コタツ布団で隠していた目覚ましを出して見せる。時計の針はまだ11時を少し回ったばかりで、薪さんはそれと俺の顔を交互に見比べると、何度目かで目覚ましに添えていた俺の手をガシッと掴んだ。
ヤバイ、今度は逃げ損ねた。
ままま、薪さんっ!?これおふざけですからねっ?本気で怒るとこじゃないですからねっ?折らないで!?
だが、俺を見据える目は本気だ。
同時にパシンッ、といい音を立ててしっぽが畳を叩き、俺はビクッと肩を竦めた。ごめんなさいごめんなさいッ。
「……嘘ついたな?」
ハ、ハイ、仰るとおりでございます……。



「はいどうぞ」
湯気が上がる丼を目の前に置いてやると、薪さんは行儀よく姿勢を正し、いただきます、と顔の前で手を合わせた。それに倣うように続いた俺がいただきますをしていると、すっと横から伸びてきた手がメガネを奪って行った。
「この方がいい」
え?
ええっと、それって、メガネがない方がかっこいいってそういう…?
「かけたままじゃ曇って見えなくなるぞ、何も」
あ、そっちですか…。
でも。
確かに手元のうどんはしっかり見えているけれど、これじゃ一番しっかり見ていたい人の顔がよく見えない。そんな思いが伝わると思ったわけではなかったけれど、手を止めてじっと自分を見つめる俺の視線に気づいた薪さんが「ん?」と首をかしげた。
「…どうした?いつもみたいにボーッとしてるとうどんがのびるぞ?」
はい、いただきます。
「薪さん」
呼びかけても俯いてうどんをすする薪さんはもうこちらには一瞥もくれない。それでも、もうすぐ来年になろうとする時計の針を見ながらどうしても今伝えておきたくて、俺は一旦箸を置いた。
「また来年の年の瀬も、一緒にうどん食べましょうね?」
「またここで?」
やはりこっちは見ないまま、ふっと笑って薪さんが聞き返した。それから。
「…別にここじゃなくても、おまえが来たっていいんだぞ」
え?ええっと…?それって。
「まぁ休みは限られているだろうから、弾丸ツアーでも組んで来るんだな?その気があるんなら」
「えっ、いいんですか!?ほんとに!?」
うん、と湯気を上げるうどんにフーフーと息を吹きかけながら、猫舌の薪さんは確かに小さく頷いた。
「……うどんは持ってくるなよ?やっぱり年越しには蕎麦だ」
ええー!?
いやそれより!えっどうしよう!舞も一緒でいいですか?どうせなら一泊じゃなく二泊はしたいから予定空けなきゃ。それにーー
「あ」
メガネを取ったせいで少しぼやけた薪さんが、時計を一瞥して微笑むのが何故かその時ははっきりと見えた気がした。俺の方を振り向いた薪さんの綺麗で嬉しそうな顔が、とても。
「あけましておめでとう」


ーおわりー



というわけで、ただ今1月1日深夜1時半を回ったところです。年明け早々に年越しネタをお送りする不毛さ( ̄▽ ̄;)
やっぱり年越しには間に合いませんでしたが、ひとまず色々片付きましたのでようやく落ち着いてアップできました。例のカップうどんのCMを中途半端ですがパロってみました(^◇^;)あのシリーズ可愛くて好きです。

先日のメロディの記事にコメントいただいているのですが、お返事が遅れておりまして申し訳ありません;;;;明日以降少し時間ができてくると思いますので、お待ち下さいませm(__)m

新年のご挨拶は、また改めて落ち着いてさせていただきますね(^^;とりあえず眠い(笑)このまま書き続けるとどんどん文章が崩壊して行きそうでもう怖くてかけません、すみません…

それでは、ひとまず失礼いたします。

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Posted byeriemama

Comments 2

There are no comments yet.
eriemama  
Re: あけましておめでとうございます

たきぎさん、こんばんは。
遅くなってしまいましたが、あけましておめでとうございます。
今年もゆるゆるな更新になっちゃうかもしれませんが、どうぞよろしくお願いいたします(^◇^;)

> 薪さんの輝きが失われたらがっかりどころじゃすみませんが、でも青木には是非モブ顔から脱出してほしい……。両立は無理なの? いや、出来るはず!

本当ですね、がっかりじゃすまないか(笑)青木にはあんなこと言わせましたが、
彼は時々思い出したようにイケメンになるくらいが良いのかもしれないなぁとも
思うんですよねぇ(^_^;)薪さんも青木もキラキラだとなんだか忙しくて。←ときめきが(笑)

> 青木を見習って、今年の大みそかはうちも年越しうどんにしようかな(笑)。

我が家はアレルギーの関係でうどんなのですけど、この年末は夕飯の鍋に入れて終わりでした(^_^)v
蕎麦はすっかり食べなくなりましたが、どうも茹でるの苦手で…のびちゃうんですよねぇ。
すぐふきこぼしちゃうし(笑)

> 紅白のKing Gnuよかったですね。TVでは白日ばかりだから、たまには違うのを見たいけどw

白日ばっかはもったいないですよねぇ。
年末はKing Gnuと髭男をやたら見た気がします。どっちも好きだから良いけど。

2020/01/05 (Sun) 00:15 | EDIT | REPLY |   
たきぎ  
あけましておめでとうございます

新年早々、可愛いお話をありがとうございます! 
薪さんの輝きが失われたらがっかりどころじゃすみませんが、でも青木には是非モブ顔から脱出してほしい……。両立は無理なの? いや、出来るはず! 
青木を見習って、今年の大みそかはうちも年越しうどんにしようかな(笑)。

紅白のKing Gnuよかったですね。TVでは白日ばかりだから、たまには違うのを見たいけどw
では、今年もどうぞよろしくお願いいたします!

2020/01/02 (Thu) 00:22 | EDIT | REPLY |   

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